| 下田温泉へ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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04年5月、天草・下田温泉に行きました。関東地方の人が下田温泉と聞くと、伊豆半島の先っぽにある下田温泉を連想してしまうと思いますが、実は天草諸島にも下田温泉というすばらしい温泉郷があります。 天草下田温泉(以下・下田温泉)は、天草諸島の下島の西側に位置しています。下島の西側は外海の東シナ海に面しており“天草灘”と呼ばれています。前回の天草特集レポート「島のなかの島、獅子島に上陸−第1集−」でご紹介した獅子島が位置している天草諸島東側は内海であるため比較的波が穏やかで潮流も少ないのですが、天草灘は外海で潮の流れが激しい海です。
わたしが宿を借りた本渡市から下田温泉に行くには、天草下島の中央山脈を越えていく必要があります。地学的に山脈と呼んでいるのかどうかは分かりませんが、ここでは、この下島の中央の山脈を「天草山脈」と呼ばせていただくことにします。山脈の高さは低いところで標高300メートルほどで、本渡市から下田温泉までの距離は約25キロメートルあります。 本来は下田温泉で一泊して、ゆっくり温泉につかりたかったのですが、天草滞在日数の制限から日帰りで行くことにしました。往復の走行距離はそれほど長くないのですが、標高差があるため、朝早く出かけないと帰ってこれなくなる可能性があります。それにせっかく下田温泉まで行くのなら、天草灘の海をじっくり眺めてみたいと思っているため、なおさら早く出発する必要があります。 天草灘は、天草諸島を取り囲む海のなかでも、とりたてて透明度が高く、美しい澄んだ海として有名です。外海なので決して穏やかではありませんが、下島の切り立った崖を削って通した道路から見る海は格別に美しいと聞きました。わたしは、朝5時に起きて6時に出発することにしました。 |
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| 朝靄(あさもや)のなかを走る。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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←左に掲載してある地図(詳細図)をご覧いただきたいのですが、本渡市から下田温泉までは、国道266号線で「八丁三叉路(はっちょうさんさろ)」と呼ばれる峠付近まで行き、そこから下田温泉に向けて坂道を下るというというのが、マイカーなどクルマにとっての一般的なルートのようです。 多少、時間がかかっても、できる限りクルマの交通量が少ない走行ルートを選ぶことで、安全性を高めようと思いました。地図を見てみると、本渡市から天草下島の中央山脈(八丁三叉路付近)まで国道266号線と平行して、1本の林道のような細い道が通っているのを見つけました。道の名前は「県道24号線・本渡下田線」です。 わたしは、県道24号線を通って下田温泉に向かうことにしました。思った通り、この道は、緑にあふれた美しい道でした。本渡市そのものが人口4万人あまりの小さな町ということもあり、本渡市内から県道24号線を自転車で走り始めて30分もたたないうちに、田畑に囲まれた郊外に出ました。 時間は朝6時30分。まだ朝早かったこともあり、田畑に朝靄(あさもや)が立ち込めていました。朝靄に太陽の光が反射して、キラキラ輝いていています。ひんやり冷たい冷気と太陽の暖かい日差しがまじって、とても幻想的です。たぶん、昼間見ると、普通の田畑にしか見えないのでしょうけれど、朝靄のかかる短い時間だけ、こうした幻想的な世界になるのだと思います。 わたしは、持ってきた菓子パンと水を飲んだあと、峠を目指してペダルを勢いよく回し始めました。太陽はぐんぐん高く昇っていき、気温が上がっていくのが分かります。「雲散霧消」とはよく言ったもので、さきほどまで立ち込めていた朝霧は、どこかに掻き消されてしまいました。 しばらく坂道を登っていくと、おもしろい地名の看板を見つけました。このまま県道24号線をまっすぐ登れば下田温泉で、右へ下れば「都呂呂」(とろろ)という海沿いの町に出るそうです。地図を見ると「都呂呂川」、「都呂呂ダム」、「都呂呂小学校」「都呂呂郵便局」… などの文字が並んでいます。かわいい地名というか、アニメのキャラクターのような響きにおどろきました。いったいどんな由来があるのでしょうね。 |
| 天草町・下田温泉に到着。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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都呂呂の看板を過ぎると、じきに天草山脈を越える峠に到着しました。峠の切り通した道の脇に、小さく「天草町」という標識が立っていました。本渡市の隣町が天草町で、この峠を境にして行政区域が分かれているようです。下田温泉は、この天草町のなかにあり、地図で見る限りは、下田温泉までずっと楽ちんな下り坂が続くハズです! 朝6時にお宿を出発し天草山脈の峠に着いたのは9時でした。この峠までの標高差が約300メートルですから、わたしの登坂力は1時間に100メートルという能力です。これに対して、峠から下田温泉までの標高差300メートルは、わずか1時間で下りきりました。 つまり、登坂力ならぬ“降坂力”は、わたしの場合、1時間に300メートルということになります。あぁ、もしこの“降坂力”の数値が、登坂力だったら、どれほどいいことか…(苦笑) “降坂力抜群”のわたしが下田温泉に着いたのは午前10時。下田温泉の入口に大きな門があり、その門をくぐると道の両脇に温泉宿がびっしりと並んでいました。目抜き通りを自転車でゆっくり走ると、硫黄の臭いがうっすらと感じられ、天然の温泉が湧き出ていることが印象づけられました。 一般的に温泉宿は夜が遅いためか、いまの午前中の時間帯の目抜き通りはひっそりとしていました。ときおり旅館やホテルの玄関先で、「また、いらしてください!」と、昨晩の宿泊客を見送る従業員さんの姿が見られました。こぢんまりとした温泉郷で、骨休めや気分転換に来るには最適な空間です。 わたしは、下田温泉郷のなかにある観光協会を訪れました。天草灘への最適な観光ルートを聞くことと、もうひとつ天草町名産の「椿油」(つばきあぶら)の販売所を聞くためです。椿油は、わたしの泊まっているお宿のおかみさんから買ってきて欲しいと頼まれました。椿油は保湿効果が高く、女性の基礎化粧品のひとつとしてよく使う素材です。 おかみさんは、「天草町の椿油は、全国でもトップクラスの品質だそうなのですが、生産量が少なくて本渡市では手に入りにくい」と話していました。このため、きょう、わたしが天草町に行くことを知ったおかみさんは、椿油の購入をわたしに依頼したのです。 案の定、観光協会の担当者の方も、生産量が少なくて、下田温泉郷の一部のホテルか、天草灘を望む崖っぷちに建てられた天草物産直売店「ブルーガーデン」にしか「地元名産の椿油は売っていない」と教えてくれました。物産直売店ブルーガーデンが、ちょうど天草灘を望む崖っぷちにあることから、椿油は、温泉郷内のホテルでなくて、ブルーガーデンで買うことにしました。 | クリックすると拡大します。 |
| 荒尾絶壁道路を走る。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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下田温泉から西へ数百メートル移動すれば、海辺に到着します。しかし、海抜数メートルのこの地点では、荒々しい外海の天草灘というよりは、穏やかな入り江の港町という感じです。確かに海は透き通っていて、小魚が群れをなして泳いでいる姿は見えますが、わたしの求めている天草灘は、もっとスケールが大きいものなのです。 観光協会で教えてもらったスケールの大きい天草灘の観光スポットは、この入り江ではなく、下田温泉から南へ15キロメートルほど行った荒尾岳あたりからの展望です。正確には、天草町町役場がある白鶴浜から海沿いに5キロほどの区間で、この区間は、海面から荒尾岳の頂上へと急角度で続く断崖絶壁を削って通した道路が続いています。 地図で確認すると、海抜100メートルほどの断崖を削って道路がつくってあります。しかし、この道路の名称については記載がなく、観光協会の方に聞いても名称がよく分からなかったため、わたしは便宜上「荒尾絶壁道路」と呼ぶことにしました。海面から荒尾岳の頂上へと続く絶壁につくられた道路という意味です。 荒尾絶壁道路からから荒々しい天草灘が一望できるとのことでしたので、わたしは、この展望スポットを目指すことにしました。運がいいことに、道の途中に天草物産直売店「ブルーガーデン」もあります。 下田温泉から国道389号線を南へ向けて走り始めてすぐのところにあるトンネルをくぐると「ブルーガーデン」が海側(進行方向右手)に見ました。下田温泉から天草町町役場がある白鶴浜までは、この国道しか道がありません。幸い、この日は、それほど交通量が多くなかったのですが、それでも、国道は大型車が通るので緊張します。わたしはとても反対車線の向こう側にあるデルーガーデンに立ち寄る勇気はないので、帰りに寄ることにしました。 白鶴浜に着いてから少し道に迷いました。どこから荒尾絶壁道路に入ったらいいのか分からず、白鶴浜の周囲をうろうろしました。付近に傾斜角が45度に見える激坂があるのですけれど、まさかこの道が荒尾絶壁道路の入口ではないという先入観が強く働きました。戦車でもない限り、こんな急な坂は登れません。道路というより、舗装された登山道です。家族連れのマイカーが誤って進入したらとても危険なくらい急な坂道です。 近くを通りかかった方に、荒尾絶壁道路の入口を聞いたところ、「この坂道を登って道なりに進め」と教えてくれました。やはり、この坂道です。わたしは自転車を降りて、押して歩きました。「自転車を押して歩く」というよりは、「自転車を引っ張り上げる」という表現の方がしっくりくるほど激しい登り坂です。 |
| 天草灘を一望する。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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海面から100メートルほど登ると、蛇行しているものの、ほぼ水平な道路につながります。ここが荒尾絶壁道路です。道路があまりに海にせせりでているため、まるで海の上100メートルの空を飛んでいるような錯覚を感じるほどです。
観光協会の方が教えてくれた通り、ここから望む天草灘は最高に美しい。エメラルドグリーンに輝いた海が、水平線いっぱいに広がっています。日本にこんな美しい海があるなんて、わたしは知りませんでした。 天草の輝く太陽の日差しが海に差し込み、海水の色をエメラルドクリーンに変えます。空気も水も澄んでいるため、海からの青い光があたり一面に反射して輝いています。道路の両側には、さまざまな草花が生い茂っているのですが、そのなかでも、椿(つばき)の木が多く育っていました。 天草町の椿油は、荒尾絶壁道路のような海の風をいっぱい受けるところで育った椿の油でできているのだと思いました。きょうは、晴れで美しい天草灘ですが、季節によっては、風がきつく、自然が厳しいところだと思います。荒尾絶壁道路沿いの民家は、みな肩を寄せ合うように密集して建っており、厳しい自然に必死で耐えている様子がうかがえました。 時刻はちょうどお昼の12時過ぎとなりました。そろそろ引き返す時間です。わたしは荒尾絶壁道路の脇で、お昼の休憩をとることにしました。この休憩が終わったら本渡市に向けて折り返します。 鞄を開けて、お弁当を取り出していたときでした。専属カメラマンが「あっ!」と声をあげました。わたしが、「どうした?」と聞いたら、「おまんじゅうがない」と、専カメが自分のお弁当用に持ってきたおまんじゅうがないと話しました。どうやら、そのおまんじゅうはスーパーのビニール袋に入れてあったため、誤ってゴミと間違え、先ほど立ち寄った観光協会のゴミ箱に捨ててしまったようです。 「間抜けな専カメだ」と思いましたが、お腹を空かせてしょげている専カメを見ていると、少し気の毒になってきました。仕方がないので、わたしの持っていたラムネ菓子を10粒ほど分け与えてあげました。でも、お腹は膨れない様子でしたので、休憩をそこそこで切り上げ、観光協会がある下田温泉まで引き返すことにしました。途中、天草物産直売店「ブルーガーデン」で椿油を買いました。 |
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| おまんじゅうを回収する。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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下田温泉の観光協会にふたたび足を運び、担当者に方に事情を話し、ゴミ箱からビニール袋に入ったおまんじゅうを回収しました。幸いなことにゴミ箱のゴミはまだ捨てられておらず、袋のなかには誤って捨ててしまったときと変わらないおいしそうなおまんじゅうが3つとあんパン1つが入っていました。 観光協会の前の広場で、専属カメラマンは、おいしそうにおまんじゅうとあんパンをかぶりついていました。よほどお腹が減っていたのでしょう。自業自得とはいえ、哀れな専カメでした(笑) このときの様子を、帰りの峠道で休憩しているときに録音しました。この録音は録音時間が3分半近くあり、なおかつファイル容量が1.37メガバイトと大きいため、ブロードバンドでない方はご注意ください。ダウンロードに時間がかかることがあります。次の段落をクリックすると再生します。 九州有数の温泉郷「天草・下田温泉」と、目が眩(くら)むような断崖絶壁の荒尾絶壁道路から望む美しい天草灘は、とても印象深く、忘れがたいツーリングとなりました。自然の厳しくも美しい姿を目の当たりにし、濁った心が洗われるようでした。 【本日のツーリング成績】 |