| 雨の天草。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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04年5月、熊本県天草諸島に1週間滞在したうち、2日間、雨に降られました。九州地方は、関東地方よりも梅雨入りが早いため、5月といえども、雨の確率が高いことが、今回の旅行で分かりました。下手すれば一週間ずっと雨ということもあり得るわけで、そんななか5日も晴れたということは、とても幸運だと考えるべきかも知れません。 雨が降ったからとはいえ、貴重な滞在期間ですので、何らかの活動はするべきだと考えました。そこで、天草名物のひとつであるイルカ見学に出かけることにしました。役場の観光課に聞いてみたところ、天草・下島の西海岸周辺でのイルカ見学がいちばん盛んだと教えてくれました。
この地域では、観光船によるイルカ見学だけでなく、小型漁船によるイルカ見学ツアーもあるとのことです。漁船による見学ツアーは、地元の漁師さんたちが、漁業のかたわらに観光客向けにイルカ見学のサービスを提供しているものです。 わたしは、さっそくイルカ見学サービスの窓口に予約の電話を入れました。ひとりあたりの見学料は約3000円とちょっと高めなのですが、窓口の方は「9割方の確率でイルカを見られる」とのことで、それならということで予約をしました。 イルカ見学サービスを提供している漁師さんがいる漁港は、本渡市から西へ約15キロメートルのところにある二江(ふたえ)という集落の近くにあります。わたしは路線バスに乗って二江の漁港に向かいました。 |
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| 二江の港にて。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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週末ということもあり、二江の漁港には、たくさんの観光客が集まっていました。マイカーで来ている客だけでなく、大型観光バスで乗り付けている客もいました。わたしは料金を支払い、さっそく漁船に乗せてもらいました。これまで大きなフェリーに乗ることはありましたが、小さな漁船に乗るのは初めてです。乗せてもらった船の名前は「魚栄丸」(ぎょえいまる)です。
わたしの他に5−6人の観光客を乗せ、客に救命胴衣を着せたあと、船は勢いよく二江の漁港を出発しました。エンジン全開で進む漁船は、想像以上に速く感じました。30代前半くらいの若い船長(キャプテン)に、どのくらいの速度で進んでいるのかお聞きしたところ「時速40キロメートル」くらい出ていると話してくれました。わたしの自転車の巡航速度の2倍の速さです。 速さだけでなく進む方向を変える旋回能力が、とても高いように思いました。キャプテンが舵を操ると、船は敏感に反応して、舳先(へさき)の向きを右へ左へと振っていきます。動きの速い魚を追跡して、捕らえるには、高い運動性能が求められることから、高出力、高運動性を持った漁船が誕生したのでしょう。
港がどんどん小さくなり、船は波を飛び越えながら、ぐんぐん前へ進みます。大きな波を舳先で打ち砕くとき、そのしぶきが全身にかかります。わたしのメガネのレンズにも潮水がかかり、白く濁って、前が見えなくなりました。漁船に乗って大海原に繰り出すには、少なくともメガネなしでも遠くの魚を発見できる視力が求められると思いました。 キャプテンは、連携して動く仲間の船と、携帯電話や無線でしきりに連絡をとりながらイルカの群れの方向を探っています。数キロメートルほど沖へ出たあと、エンジン出力を絞り込み、前方に存在するであろうイルカの群れに慎重に接近していきます。他の港から出港した漁船や大型の観光船も、前方のある一帯を目指して、じりじりと前へ進んでいます。ざっと数えただけでも、10隻以上の船がイルカ見学に集まっています。 |
| イルカの群れと遭遇。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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他船の甲板上にも、イルカ見学に来た観光客がたくさん乗っています。なかには甲板から溢(あふ)れんばかりの人が、海へ身体を乗り出している船もいます。すると、乗客の一部から、「わーっ」という歓声があがり、カメラのフラッシュがピカピカと連続して光りました。どうやら、彼らはわたしより先にイルカの群れを見つけたようです。
キャプテンは、操舵室(ブリッジ)の屋根の上に頭を突き出して、イルカの姿を追っています。ここは天草灘の外海であるため、波が高く、船が上下・左右・前後にぐるぐると立体的に揺れ動きます。わたしは、船の安全柵につかまって自分の身体を支えるだけでもたいへんなのに、キャプテンはブリッジの操舵席のうえに立って、イルカを探しています。 他の船が、魚栄丸に近づいてくるのが分かりました。観光客の歓声がやんでいることからイルカは、海に潜ってしまったようです。他の船はふたたび、わたしと同じ方向に針路をとっています。周囲の船の動きから、前方にイルカの群れが近いことを察知しました。じっと目をこらして見ていると、なにやら黒い影が海のなかに見えました。その瞬間、3−4頭のイルカが一斉に海面へ姿を見せました。
すると、今度は船の反対側の海面からも2−3頭が飛び出し、観光客の歓声があがりました。周囲を見渡すと、ちょうどイルカの群れの真ん中に位置しているようで、何十頭ものイルカが泳いでいる姿がよく見えました。まわりはイルカだらけです。少なく見積もっても20−30頭はいる感じです。 地元の方のお話しによれば、この海域は魚の群れの通り道になっていて、その魚を狙うイルカの群れが、すっかり住み着いてしまっているようです。漁師さんたちにとっては、漁獲量の減少にもつながるため、必ずしもイルカは歓迎するものではないのかも知れません。でも、こうした週末の観光客の誘致が、少しでも漁師さんたちの穴埋めになればいいと思います。 |
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| 群れからの離脱。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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観光客の乗せた船団は、イルカの群れの針路をふさいだり、群れの後ろから追いかけたりすることはなく、群れの側面で、ゆっくり寄り添うように進みます。エンジンは、ほとんど停止状態であるため、イルカの群れの方が速度が速く進みます。
何十頭ものイルカたちは、船団の真ん中を突き抜けたあと、やがて波の向こうに姿を消してしまいました。観光客の歓声は消えて、しずかな海へ戻りました。 キャプテンは、ぼそっと「イルカ見えた?」と乗客に聞き、皆がうなずくと「帰港します」と言い終わるか、終わらないかのうちに強力なエンジンの出力を一気にあげました。素早い魚を追いかけ、捕らえるためだけにつくられた高出力のディーゼルエンジンは、「ババババッ」と雄叫びをあげて、プロペラをぶん回しました。船の舳先(へさき)が、ぐっと持ち上げられ、その直後、キャプテンは取り舵いっぱいで左へ船を向けました。 舳先を上げたまま、海面を引き裂き、ぐるりと方向を変えました。魚栄丸には、まるでジェット旅客機が離陸するときのような強い反作用が働いたため、わたしの身体は船の安全柵に押しつけられました。回転しているあいだも速度を上げ続け、母港へ針路を向けたときには、すでに最高速に達していました。 |
| 帰港する。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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同じ船には、10歳前後の子供2人が両親に連れられて乗っていました。沖へ出ると風が冷たく強風で、おまけに潮水で服が濡れて、子供たちの唇は真っ青に変色していました。両親がナイロン製の上着をかぶせて、子供を自分たちの身体で挟み込むように保温に努めていましたが、やはり漁船のような小型高速艇で外海に出るのは、子供にとって辛いものがあるようです。
港に降り立ったあとも、船の揺れと、強い反作用のため、まだ足下がふらふらしました。少し休憩するため、売店に立ち寄りました。店員の方々は、漁師さんの奥さま方のようで、日干しにした小魚を勧めてくれました。ひとパック500円で、袋のなかには100匹ほどの小魚の日干しが入っていました。 わたしの職場の社員数は約50人で、天草のおみやげとして1人あたり2匹ずつ分け与えたとすれば、ちょうどいい数です。ひとりあたりのコストは10円でリーズナブルです。職場へのおみやげとしてちょうどいいと思い、買って帰ることにしました。 でも、味も確かめずにおみやげにするのはちょっと不安だし、九州出身の課長は、魚の味にはなにかとうるさいことで有名です。そこで、帰りのバスのなかで、ちょっとだけ袋を開けて試食をしてみることにしました。とりあえず1匹(残り99匹)を食べてみると、とてもおいしい! コリコリしていて、甘い蜜のような味がします。小魚の骨が舌のうえに溶けるように広がり、ふだん不足気味のカルシウムもたっぷり摂(と)れそうです。そういえば、船のうえで吐くといけないからと思い、朝ご飯も昼ご飯も、ほんの少ししか食べていないことを思い出しました。お腹ペコペコです。 もうひとつだけならいいと思い、つまんでみると、なぜか1匹目よりも、もっとおいしい…。気が付いたら、全部食べてました。職場のみなさま、すみません! 今回のイルカ見学だけでなく、本渡市内にあるキリスト教信者の記念館「天草切支丹(キリシタン)館」の見学や、地元の映画館、大型スーパー、水族館でのペンギン見学、室内でのゲームなど、雨の天草を存分に楽しみました。 天草・島めぐり特集、おわり。 |
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