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美女谷温泉から消滅した515号線へ
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林道栃谷坂沢線を走る。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 2004年晩秋、JR中央線・藤野駅から美女谷温泉、津久井湖などを経て、小田急線・町田駅までの約50キロメートルを走りました。津久井湖では北側の道路の一部が崩れたまま放置されていました。藤野駅から美女谷温泉までは「栃谷坂沢線」と呼ばれる林道を通りました。この林道は、クルマの通りがほとんどなく、とても快適に走ることができました。

美女谷峠に向けて力いっぱいペダルを回しました。

 高尾駅へ行くとき、わたしは京王線特急・準特急を使うべきか、JR中央線中央特快を使うべきか、いつも悩みます。京王線特急・準特急は新宿−高尾間を40分ちょっとで結ぶ快適な電車です。運賃も350円と割安です。中央特快は所要時間はほぼ同じですが、運賃が540円と割高です。

 しかし、中央特快は土曜休日の朝6時台から運転しているのに対して、京王線特急・準特急は8時台にならないと運転しません。京王線の急行は7時台からありますが、特急・準特急ほど速くありません。朝の時間帯を有効に使うには中央特快、朝のんびりして割安運賃で行きたいときは京王線特急・準特急が便利ということになります。

 今回は比較的、のんびり走ろうと思いましたので、京王線を使いました。さらに高尾駅で乗り換えのときに、駅前のハンバーガー店で朝ご飯もいただきました。

 高尾駅から目的地の藤野駅まではJRしか走っていないため、京王線から乗り換えなければなりません。JR線でも高尾駅止まりが多いため、通常は乗り換える必要があります。藤野駅まで行ってしまうと朝食をいただく場所がなくなってしまうため、高尾で休憩を兼ねて朝食をいただくことにしました。

 ◆高尾駅からJR中央線に乗り換えたばかりの車内で録音しました。「今、高尾駅を出発しました。これから藤野駅に向かいます。そのあと自転車で美女谷峠を越えて津久井湖に戻るコースを走ります」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間19秒、ファイル容量151KB、MP3形式)

クリックすると拡大します。
今回の活動地域を示した図です。クリックすると拡大します。
走行コース全体を示した図です。全行程の走行距離は約50キロメートルになりました。
JR中央線・藤野駅の前にて。自転車を組み立てたところです。
藤野駅の前にて。これから美女谷峠や津久井湖などを盛りだくさんのランドマークを目指します。いざ出発!
藤野駅前の植え込みのなかから、わたしを出迎えてくれたロボット。ほっそりとした赤い顔のおとなしそうなロボットでした。
藤野駅でロボットがお出迎え。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
クリックすると拡大します。
藤野駅から津久井湖までの詳細図です。クリックすると拡大します。
美女谷峠周辺の立体的な詳細図です。地形測定ソフト「カシミール3D」をもとに制作しました。
藤野駅から津久井湖までの高低差を示した図です。
植え込みにいたロボット。
陣馬温泉郷の陣谷温泉の前にて。山あいの静かな温泉に落ち着いた高級料亭が併設された“大人の隠れ家”という雰囲気でした。
陣谷温泉の前にて。

 藤野駅で自転車を組み立て、林道栃谷坂沢線へ向かおうとしたときでした。赤い顔のロボットが、植え込みのなかに立って、手を振っているのに気づきました。おとなしいロボットでしたので、いっしょに記念撮影をしました。ロボットの名前は分かりませんでしたが、ほっそりとしたスタイルでした。

 ロボットが立っている場所からトンネルをくぐって山手の方へ自転車を進めました。藤野駅のすぐ近くに交通量のとても多い国道20号線が通っているのですが、トンネルを抜けて山手に行く道は、ひっそりとしていました。クルマはたまにしか通りません。この道は地方道522号線で、道なりに2キロメートルほど進むと今回の目標のひとつである「林道栃谷坂沢線」の入口が進行方向右手に見えてきます。

 地方道522号線をそのまま登っていけば、地方道521号(陣馬街道)に接続し、さらに登れば和田峠に行きます。和田峠を521号線(陣馬街道)沿いに下れば八王子方面へ進みます。また、和田峠から醍醐川沿いの林道へ進めば入山峠方面に進むこともできます。この道のクルマの交通量は比較的少なく、醍醐川沿いの林道に至ってはクルマの通行はほとんどありません。このため自転車ライダーの姿を頻繁に見ることができます。

 今回は、わたしは地方道522号線沿いには進まず、和田峠よりも高尾山寄りの明王峠付近に通じる林道栃谷坂沢線に進みました。この林道は、陣馬街道のようにどこかへ抜けられる構造にはなっておらず、国道20号線(藤野駅付近)から入っても、再び国道20号線に戻るだけです。わたしがクルマのドライバーだったら、まず通ろうとは思わないでしょう。

 この林道には峠が1か所、温泉郷が2か所あります。峠の手前には陣馬温泉郷の陣谷温泉があり、峠に向こう側には美女谷温泉があります。美女谷とは、室町時代の伝説の美女「照手」(てるて)さんがここで生まれたことに由来しているそうです。陣谷温泉と美女谷温泉のほぼ中間地点にある峠の名称はよく分かりませんでしたので、このレポートでは美女谷峠と呼ばせていただきます。

 美女谷峠は標高600メートルほどです。わたしが登り始めた藤野駅は、すでに標高200メートルほどのところにありますから、標高差で約400メートル。地方道522号線から林道へ曲がったところから登り坂を1キロメートルほど進むと陣谷温泉があります。この後も登り坂が続きますが、徐々に湾曲しながら緩やかに登っていくため、自転車を押して歩くことなく、快調にペダルを回し続けることができました。

美女谷峠から美女谷温泉へ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 美女谷峠では、わたしが登ってきた林道と、長距離自然歩道の首都圏自然歩道(関東ふれあいの道)から相模湖に下る登山道と交差していました。多くの登山客が楽しそうに林道を横切っていきました。登山道を少し登れば、相模湖を一望できることで有名な明王峠に行けます。

美女谷峠にて。舗装された「栃谷坂沢林道」と明王峠から相模湖に下る登山道が交差しています。わたしの後ろのUの字に曲がった舗装路が林道で、わたしの立っている道が登山道です。わたしの後ろ側が明王峠方面。

 ただし、この登山道は、高尾山から陣馬山に続く人気コースの支線のようで、天気のいい週末の人通りは、けっこう多いように思いました。もし、ここから明王峠へ登るとすれば、美女谷峠付近に自転車を停めて、徒歩で登った方が登りやすいと思いました。

 美女谷峠から明王峠までは、直線距離で約600メートルしかないものの、標高差は120メートルあまりもあります。短い距離を自転車を担いで登るより、いち登山客として徒歩で登った方が快適でしょう。下手に自転車を持ち込むと、登山客から白い目で見られ、マナーを疑われることにもなりかねません。

 今朝、のんびり出発したため、少し時間が押しており、明王峠に登るのは次の機会にしました。自転車を美女谷の方に向けて走らせました。下り坂なので、見る見る間にスピードが上がっていきますが、林道は道が狭く、見通しが悪いため時速25キロメートルを越えないよう、慎重に下りました。

 しばらく下ると、美女谷温泉の大きな看板が見つかりました。空を見上げると、高速道路の中央自動車道の巨大な陸橋が見えます。山の中腹に空けられた小仏トンネルから出てきた陸橋がずっと向こうの方まで伸びています。先ほどの明王峠と小仏トンネルが通っている小仏峠との谷間が美女谷です。

 今でこそ頭上に高速道路が通り、すぐ近くにはJR中央線や国道20号線が通っていますが、ずっと昔は、とても静かな谷間だったと思われます。

登山道を10メートルほど走ってみました。この先はすぐに階段や急な斜面となり、自転車では通れそうにありません。

 時刻は午後の2時。このまま電車に乗って帰るには、まだ時間が早かったため、わたしは津久井湖沿いに相模原市・町田市方面に抜けることにしました。地図で調べたところ、津久井湖の北側には地方道515号線、南側には国道412号線がそれぞれ通っています。

 北側の地方道515号線は、国道と平行して走っていることからクルマの通りが少ないと考え、わたしは、北側の道を進むことにしました。

クリックすると拡大します。
美女谷峠を目指して勢いよくペダルを回す。
山々に囲まれた民家。
美女谷峠にあった「栃谷坂沢林道」の完成記念碑にて。
美女谷峠まで登ってきたら、ほっとして眠くなりました。
美女谷峠は、登山客が頻繁に横切っていきました。
美女谷峠を過ぎれば、麓の美女谷温泉まで下り坂が続きます。
美女谷温泉に向けて元気よく坂道を下りました。
放置された地方道515号線。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
クリックすると拡大します。
津久井湖周辺の立体的な詳細図です。カシミール3Dをもとに制作しました。
美女谷温泉は深い谷あいのなかにありました。
津久井湖畔のうどん屋さんで、おいしい煮込みうどんをいただきました。
巨大なエビフライが載っています。
とても熱いので、息を吹きかけ、冷ましながらいただきました。
地方道515号線に設けられたバリケード。「誰も通さないぞ」という強い意思が感じられました。

 国道20号線を横切って、地方道515号線に入りました。国道20号線はひっきりなしにクルマや大型ダンプ、トレーラーが地響きを立てながら通りますが、地方道515号線に入るとクルマの交通量は急に少なくなります。

美女谷温泉の入口にて。

 わたしは少しお腹が減ったので、たまたま道沿いにあったうどん屋さんで少し遅いお昼ご飯をいただくことにしました。いくらペダルを回して体を温めているとはいえ、自転車で風を切って走ると、やはり寒い。手先や足先が冷たくなっていたため、わたしは暖かい煮込みうどんを注文しました。

 うどん屋さんは、民家の座敷を開放したような造りでした。靴を脱いで畳の上にあがり、低いテーブルの下に足を折りたたんでお料理をいただきます。座敷は暖房が効いて暖かいうえ、足を折り畳み、体を丸めた格好は体温を逃がしにくく、とても心地よく感じました。

 手足の先まで暖かくなった頃、注文した煮込みうどんがやってきました。うどんの上には、特大のエビフライが載せてありました。熱々のうどんは、まるでぐつぐつと煮込む音が聞こえてくるようでした。わたしは熱いうどんを、ふーふー冷ましながら口に入れました。腰があって、味がよくしみたおいしいうどんです。食べていると、体の芯までよく温まり、額からは汗が出てきました。

 もうお腹いっぱいです。食後に少し休憩していると、体からむくむくと元気が湧いてきました。わたしは再び地方道515号線を元気よく進むことにしました。

 しばらく進むと、交通標識に「この先、通行止め」と書いてあるのに気づきました。わたしは「不法投棄を防ぐため、マイカーは通行止めにしてあるのかも知れない」と思いながら、そのまま先に進みました。すると、真正面に、これまで見たこともないような頑丈なバリケードが現れました。バリケードは太い針金などで頑丈に固定してあり、開閉はできない構造です。

 林道の多くは、マイカーやトラックが進入し、不法投棄や事故を起こさないよう通行制限するためのゲートがつくってあります。但し、こうしたゲートは、林業関係者が通行できるよう開閉式になっています。ここのように道路にバリケードが固定してあるのは、とても珍しいケースです。バリケードは大型のもので、自転車はおろか、歩行者も通れないようになっています。

仕方なく国道へ迂回する。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 わたしは、自転車をバリケードの前に停めて、この先の道がどのような状態にあるのか確かめに行くことにしました。バリケードから先の地方道515号線は、もう何年も人が踏み込んでいない様相です。木々の枝が垂れ下がり、小規模な土砂崩れが至るところに見られました。

きょうの走行ルートに位置づけていた地方道515号線が通行止めになっていたことで落ち込むわたし。これからクルマの交通量が多い国道へと迂回しなければならず、少し不安です。

 ふと脇に立ててある道路標識を見ると、「この先50メートルにクルマが擦れ違うための待避所がある」と書いてあります。さらにその標識をよく見ると、鉄板でできた標識の何か所か穴が空いています。穴の直径は2−3センチくらいあり、何か勢いのある鋭利なものが貫通してできたようです。

 最初は、散弾銃が誤って標識に当たったものかと思いました。しかし、散弾銃の小さな無数の弾を至近距離で撃ったとしても、このような大きな穴を空ける威力があるとは考えにくいことから、もっと力のある鋭利な道具が使われたのかも知れません。このように破損した道路標識が放置されていることから、この道路は復旧されない“廃棄された道”の可能性が推測されました。

 道路標識に示された50メートル先の待避所もありませんでした。代わりにあったのは大量の土砂と、この土砂により道路の一部が津久井湖へに押し流された有り様でした。これでは、自転車どころか人も通れません。道路としての機能は完全に消滅していました。あの頑丈なバリケードは「この道は崩落した」ことを表していたのだと、この道路の崩落現場を見て理解できました。

 市販の地図の一部には、今でも地方道515号線が全線機能しているかのような記述がありますが、今回のツーリングでこの道の一部は機能していないことが明らかになりました。仕方がないため、わたしは津久井湖の南側を走る国道412号線へ迂回することにしました。先ほどのうどん屋さんの方向に逆戻りし、桂橋という橋を渡ると国道412号線に出ます。

クリックすると拡大します。
バリケードの左側は山の斜面が張り付いており、右側は津久井湖へ続く崖になっていました。わたしは崖に落ちないよう、慎重にガードレールをまたいで、この道がどこまで続くのか歩いて見に行きました。
土砂崩れや路面の崩落により消失した地方道515号線。自転車はおろか、人も通れませんでした。
地方道515号線から津久井湖を望みました。多量の雨が降ったあとだったため湖の水は少し濁っていました。
崩落した地方道515号線にあった道路標識。何か所か穴が空いていました。鋭利な道具で標識の鉄板を貫通させたような痕跡が残っていました。損傷したままに放置されている標識は、この道路が当面のあいだ復旧する見込みのないことを象徴しているようでした。
再び地方道515号線へ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
クリックすると拡大します。
名手橋付近の地図には地方道515号線が通行止めになっていることが示してありました。
名手橋付近の地図です。
名手橋を渡り再び地方道515号線に戻ってきました。相模原方面に向けて自転車を進めました。
地方道515号線の道幅はとても狭く、クルマの通行は少なかった。
この道は、急峻な山の斜面を削って建設した道路で、もともと崖崩れや路面の崩落を起こしやすい性質があるようです。至るところに岩が落ちてこないよう防護ネットが貼り付けてありました。
小田急線・町田駅から輪行して帰りました。

 国道412号線は、国道だけにクルマや大型ダンプの交通量がとても多い。わたしはクルマに怯えながら、再び津久井湖の北側へ渡ることはできないものかと考えました。津久井湖には、わたしが渡ってきた桂橋の他に、津久井湖の真ん中付近に架かる名手橋、下流方面に架かる三井大橋の3つの橋が架かっています。わたしは、名手橋を北側へと渡って、地方道515号線が通行できるかどうか試してみることにしました。

 国道を離れると、急にクルマの通りが少なくなりました。また道が崩落しているのではないかと不安になりましたが、なんとか名手橋を渡り、津久井湖の反対側へ行くことができました。しばらく走っていると地方道515号線の標識が目に飛び込んできました。どうやら515号線に戻れたようです。

 地方道515号線がどこから通行止めになっているのかを、付近を通りかかった地元の方に訪ねてみたところ、名手橋から上流方面は道路の崩落などの理由で通行止めになっているとのことでした。地方道515号線は、クルマが擦れ違えないほどの狭い道で、もともと交通量が少なかったようです。道幅の広い国道が、津久井湖を挟んで平行に走っていることから、道路が崩落しても復旧する必要性が低いと判断した可能性もあります。

 名手橋から地方道515号線に入り、そのまま津久井湖の北側を走り京王線・橋本駅まで自転車を進めました。ここから輪行(自転車を袋に詰めて電車などで運搬すること)して帰ってもよかったのですが、わたしは、橋本駅付近を通るサイクリングロード兼遊歩道の戦車道(尾根緑道)と境川サイクリングロードを乗り継いで小田急線・町田駅まで自転車を走らせました。

 戦車道や境川サイクリングロードは、とてもよく整備されていて、快適に自転車で走れます。ここまで来たからには、この道を走らないのはもったいないことだと考え、足を伸ばすことにしました。思ったとおり快適な道で、充足感に充ち満ちた気持ちで町田駅に着くことができました。

 ◆帰りの電車のなかで録音しました。「本来なら、津久井湖の北側を直線的に走って相模原に戻る計画でした。しかし、土砂崩れで道路が消滅していたため、仕方なくクルマの交通量が多い国道へと迂回しました」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間29秒、ファイル容量232KB、MP3形式)

 今回は、予想外の道路崩落のために、一部区間でクルマの交通量が多い国道を走らざるを得ませんでした。津久井湖周辺は首都圏から近くクルマの交通量が多い傾向が強いものの、1本奥の道に入れば、美しい渓谷や山深い峠道がたくさんあります。津久井湖周辺の、どのルートがより自転車の走行に適しているのか、今後の研究課題のひとつにしたいと考えています。



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