秦野峠、一日で五つの峠を越える
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渋沢駅を出発。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
今回の走行ルート図です。地図をクリックすると拡大します。

 04年4月、神奈川県・秦野峠(はだのとうげ)に登りました。小田急線・渋沢駅から標高約750メートルの秦野峠に向かいました。

 ただし、今回は、秦野峠を越えて“あとは下り坂で楽ちん”というコースではありません。全行程約53キロメートルのうち、大小の峠を合計5つも越えたのです。たった一日で5つの峠を越えたのは、今回が初めてです。

走行ルート図の断面図です。カシミール3Dで制作しました。

 5つの峠のうち、2つは小さな峠ですが、秦野峠、日影峠、都夫良野峠の3つは標高も高く、登り甲斐がある峠でした。

 ◆この日は晴天で、最高気温は約20度。湿度も低く、すがすがしい陽気でした。わたしは、渋沢駅まで輪行(自転車を袋に入れて電車などで運ぶこと)し、駅前の広場で自転車を組み立てました。晴れわたっていたこともあり、駅からは神奈川県・丹沢地区の美しい山々がよく見えました。押すと写真が出ます。

渋沢駅前にて。丹沢山系の山々がとても美しい。

 前回、ここへ来たのは、2年前の夏の日でした。真夏の暑い日でしたが、今日と同じように、青空が広がっていました。秦野峠を目指して坂道を登っていくと、山の陰から真っ黒な雨雲が姿を現し、土砂降りの雨を浴びせられました。あまりに雨がひどく、雨宿りをする大木や民家もなかったため、カメラを防水鞄から取り出せず、そのときの写真は1枚もありません。でも、今回は、雷雨が降り注ぐような季節ではないため、雨に降られることなく、峠に臨めそうです。

渋沢駅前から富士山も見えた。

 わたしは、渋沢駅前を走る国道246号線を小田原方面へ寄(やどりき)入り口の丁字路まで、なだらかな坂道を下りました。国道246号線上にある「寄入口」(やどりきいりぐち)の丁字路の標高は約100メートルで、渋沢駅(標高約170メートル)からおよそ70メートル下ったところにあります。

 わたしは、寄入口丁字路にあったコンビニで炭酸ジュースを買い、国道246号線をあとにして、峠を登り始めました。

寄峠へ臨む。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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山桜もきれい。
秦野峠を背景に。
寄のキャンプ場の近くにて。
秦野峠の入口付近にて。
秦野峠林道に入ったところ。
寄峠に登る途中のバス停にて。

 さっそく目の前に立ちふさがった峠は、本日ひとつ目の峠である“寄峠(やどりきとうげ)”です。標高は約300メートルで、寄入口からの標高差は約200メートルあります。この峠が寄峠という名称なのかは定かでありませんが、ここでは便宜上、寄峠と呼ばせてもらいます。

 この峠を越えると、キャンプ場の施設が充実していることで有名な集落・寄(やどりき)があり、寄へ通じる峠道という意味で寄峠と名付けました。

 寄入口から寄峠、寄の集落への県道710号線は、マイカーやトラックでは、事実上、通り抜けが困難な構造になっているため、寄の集落に住む方か、その関係者が運転するクルマくらいしか通りません。夏場は寄にあるキャンプ場に向かう親子連れのクルマが目立ちますが、今は、まだシーズンではないため、たまに寄を往き来するクルマが通るくらいで、静かなものです。のんびりと自転車に乗ることができました。

寄の集落を過ぎて、秦野峠入口に向かう途中にて。まっすぐな道が気持ちいい。

 寄の集落へ行くには、寄峠に登ってから、一度、標高差で約50メートルほど下り、ふたたび標高約300メートルまで登らなければなりません。周囲を山に険しい山に囲まれた高原にある寄は、真夏でもヒンヤリとした風が、山の谷間から吹き込んでくる涼しいところです。面積は小さいのですが、少しだけ平坦な土地もあり、ほっと一息つけます。ペダルを回す力を抜いても、自転車がスムースに前へ進んでいきます。

 ◆寄のキャンプ場近くに設置してある公衆便所で用を済ませて、少し休憩をとりました。寄の中心を流れる中津川の水の音が、心地よく周囲の山々に響いています。この川沿いの道路は、まっすぐに延びて、見通しがとてもいい。

いざ、秦野峠へ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
秦野峠林道にて。

 寄から秦野峠への入口までは、標高差で約100メートル強ありますが、その先は、マイカー通行止めであるため、クルマはほとんど通りません。 

 わたしは、2年前の夏を思い出しました。青い空に、強い光熱を放つ太陽が輝き、吹き出る汗のため、喉がかわきました。ところが、秦野峠の入口から林道をのぼり始めると、山の陰から黒々とした雨雲が湧き上がってきました。

 きょう、もし、秦野峠の方から雨雲が現れたら、すぐに引き返そうと思いながら、わたしは、恐る恐る秦野峠の入口に立ちました。

秦野峠林道の竣工記念碑の前にて。奥に林道工事の事故でお亡くなりになった方の鎮魂碑がある。

 入口には、クルマ止めのゲートがあります。林道に入り込んでの不法投棄を防ぐのが狙いのようです。このゲートから林道をのぞき込ました。目線を上に向け、山の上を見上げると、さっきと変わらない青空が広がっています。「きょうは大丈夫かな…」と思い、秦野峠への林道を勢いよく登り始めました。

 秦野峠林道は、寄と丹沢湖を結ぶ唯一の道路です。寄側の入口から丹沢湖までの距離は約14キロメートル。全線開通まで25年の歳月と42億円の巨費が投じられました。工事の途中、事故でお亡くなりになった方もいる難しいプロジェクトだったそうです。

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遅い桜が咲いていた。
山桜とわたし。
若葉も少し芽吹く。
秦野峠の頂上にて。
2つの峠。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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秦野林道の地図。
秦野林道の断面図。
秦野峠頂上の様子。
傾斜度は12%を超える。
険しい山々。
全線開通まで25年の歳月と42億円の巨費が投じられた。

 秦野峠林道には、2つの峠があります。ひとつは秦野峠、もうひとつは日影山山頂付近の峠です。ここでは日影峠と呼ぶことにします。ともに標高750メートル級の大きな峠です。

 2年前、わたしは、秦野峠付近で夕立にやられました。当時は、まだ自転車に乗り始めたばかりで、地図の等高線の重要さに、それほど注意を払っていませんでした。「雨に降られても、秦野峠さえ越えれば、あとは下り坂で、雨宿りができる丹沢湖に抜けられる」と勝手に思い込み、雨が降り始めているにもかかわらず、峠を越えてしまいました。

 自転車は、雨水を巻き上げながら、坂を下ってゆきました。標高差で約150メートル近く下ったところで、わたしの目の前に立ちふさがったのが日影峠でした。夕立の勢いは衰えることを知らず、雨宿りを許してくれる大木や民家もありません。道路建設のために深くえぐられた山肌から、雨水が何か所も噴き出し、恐ろしい思いをしました。

現在位置に秦野峠を指し示した秦野林道の地図。沢の名称や林道の距離が詳しく記入してある。

 ◆秦野峠に登ったときに録音しました。「いま、秦野峠の竣工記念の石碑の前にいます。風がでてきました。ここは、まだ全行程の半分くらいしか走っていないのだけど、峠がきつくて、もう疲れてしまいました」と話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間20秒、容量156KB、MP3形式)

 きょうは、あの日とは、打って変わって、ほがらかなよい天気でした。それでも、秦野峠を下り、日影峠に登るときは、2年前の夕立の記憶が呼び起こされ、少し緊張しました。

 ◆秦野峠と日影峠とのあいだにある谷間は、落差が150メートルもある断崖のような地形をしています。谷間を走る道の傾斜度は最大で12%の急坂で、まるで壁が立ちふさがっているような錯覚を感じます。2本の足でまっすぐ立てないほどの傾斜では、とても自転車に乗って登ることはできません。自転車を手で押しながら、じわじわと日影峠を目指しました。押すと写真が出ます。

日影の谷に響く鳥の声。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
遥か遠くの下の方に道が見える。

 日影峠に登る途中は、四方から山々が迫り、まったく見通しが利きません。大きな壺のなかに放り込まれて、二度と出られないような寂しい気持ちになりました。時折、聞こえる鳥の声が、たったひとつの出口から聞こえてくる救いの導きのように思えてきます。

 ◆日影峠にのぼる途中で聞こえてきた救いの鳥の声を録音しました。ここをクリックすると再生します。(録音時間1分12秒、容量570KB、MP3形式)

 ◆「この鳥の声は、どんな鳥が鳴いているんだろう。。。」という趣旨を話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間6秒、容量51.2KB、MP3形式)

これから、あの下の方の道を走る。

 ◆「鳥が可愛い声で鳴いています。でも、鳥の種類が分からない。ミミズク… そんなわけないだろうな」と話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間26秒、容量210KB、MP3形式)

 ◆「鳥の声、ピッピ、ピロピロという声がよく聞こえる。さっき鳴いていた鳥と同じ種類かな。ヒバリでしょうか?」と話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間19秒、容量149KB、MP3形式)

 林道には、落石による拳(こぶし)大の石がたんさん転がっており、ほとんど人やクルマが通っていない様子でした。

林道には、落石による拳(こぶし)大の石がたんさん転がっていました。

 てくてくと自転車を押しながら、日影峠の頂上に登りました。ここは、2年前、夕立に降られたとき、ずぶ濡れになりながら登ったところです。峠に着いたとたん、青空が広がり、燦々(さんさん)と照りつける太陽が姿を現した場所でもあります。

 ◆日影山のてっぺんで録音しました。「日影山の峠にやっと着きました。この山はキツつぎ…」と話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間9秒、容量71.2KB、MP3形式)

丹沢湖が見えた! (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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丹沢湖を臨む。
わたしと丹沢湖。
丹沢湖。
日影峠を越えたあたりで、丹沢湖が見えました。

 日影峠をすぎると、急に視界が開けてきます。秦野峠と日影峠のあいだにある谷間が、深い山で閉ざされているだけに、ここを抜け出したときに開ける視界は、ほんとうに美しく感じます。本日3つ目の峠となる日影峠にのぼり、丹沢湖へ向けて坂を下り始めると、遠くに丹沢湖が見えました。

 あまりに遠くから見ているので、巨大な湖が、まるでシワシワの地表の隙間に溜まった水滴のように見えます。また、その不自然さが人口のダム湖であることを示しているように思いました。

 標高約750メートルの日影山から同約350メートルの丹沢湖までの標高差約400メートルのあいだは、飛行機が急降下するような激しい下り坂が続きます。日影峠から丹沢湖までの距離は約5キロメートルあるため、100メートル進むごとにおよそ8メートルの落差を下ることになります。

丹沢湖で休憩。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
丹沢湖の三保ダムで休憩。わたしの後ろに見える山は大野山(おおのやま)。山頂に育成牧場がある。

 ◆坂道を、慎重に下り、丹沢湖に着きました。丹沢湖の周囲には道路がつくってあります。丹沢湖は、マイカーやトラックにとって、通り抜けができない構造になっているため、丹沢湖およびその関連に用事がない人は、基本的にクルマを乗り入れることはありません。他の湖に比べて、クルマの交通量が少ないのは、丹沢湖の魅力のひとつになっています。押すと写真が出ます。

 ◆丹沢湖に着いたときに録音しました。「『丹沢や、そよ吹く風の暖かさ』。丹沢にやってまいりました。があ子です。このような山深いところにも春がやってきました。吹いてくる風も暖かく感じられます。その感動をもとに語呂合わせをしてみました」と話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間31秒、容量247KB、MP3形式)

頭の禿げた大野山を指さすわたし。大野山の頂上からも、丹沢湖および三保ダムの全体像がよく見わたせる。

 ◆わたしは、丹沢湖を半周して、ダムの堤防のところで休憩をとりました。堤防からは、丹沢湖の南側に位置する大野山がよく見えます。大野山の頂上には、育成牧場があり、大きい木々がありません。頭のてっぺんが禿(は)げた山を探せば、それが大野山ということになるので、とても分かりやすいです。押すと写真が出ます。

 丹沢湖からは、県道76号線を国道246号線方面に下りました。県道76号線は、マイカーやトラックで、丹沢湖まで行ける唯一の道路です。

 丹沢湖は、県道76号線以外にも、東側の秦野峠を経由する道(きょう、わたしが通った道)、北側の犬越路トンネルを経由する道、西側の世附川沿いの道など3本ありますが、いずれもマイカー通行止めです。世附川沿いの道に至っては、歩行者に対しても厳しい監視をしているようです。不法投棄や山菜採りなど、山を荒らされるのを防ぐことが目的のようです。

都夫良野峠。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
地図ソフトの「カシミール3D」で作成した都夫良野峠周辺の地図です。クリックすると拡大します。

 県道76号線を下ると、清水橋に出ます。清水橋は、国道246号線が酒匂川(さかわがわ)をわたるための橋であると同時に、丹沢湖へ通じる道の目印として、地元の方々を中心に、とても有名な橋です。

 清水橋の近くには、JR御殿場線の谷峨駅(やがえき)があり、いつもなら、ここから輪行して帰宅します。でも、今回は、小田急線の新松田駅まで、自転車で行くことにしました。ただし、このあたりの国道246号線は、歩道がまったくないうえに、大型トラックが黒煙を噴き上げて爆走して、とても危険です。自転車で通ることはできません。

地図ソフトの「マップファンドットネット」で作成した都夫良野峠の地図です。クリックすると拡大します。

 そこで、国道246号線と平行して通る都夫良野峠(とふらのとうげ)を越えていくことにしました。都夫良野峠の真下には、東名高速道路の都夫良野トンネルが通っています。このあたりは山が険しく、東名高速道路の上下線とも複数のトンネルと巨大な陸橋を通っています。

 都夫良野峠は、標高約400メートルで、清水橋からの標高差は約240メートルあります。急な坂道を通り越して“激坂”の連続です。登り坂では、ほとんど自転車に乗ることはできませんでした。都夫良野峠は、きょう4つ目の峠で、激坂の度合いは、日影峠といい勝負だと思います。

クリックすると拡大します。
都夫良野峠に登る途中から見る東名高速道路の陸橋。
東名高速とわたし。
東名高速陸橋の全体像。
新松田駅へ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
クリックすると拡大します。
酒匂川の河川近くにて。
夕暮れが迫る。
酒匂川自転車道入口にて。
新松田駅の蕎麦屋にて。
都夫良野峠の頂上にて。周囲には、お茶畑がたくさんありました。

 都夫良野峠を越えて、坂を下りきると、ふたたび国道246号線に出ます。国道と酒匂川は、ほぼ平行の位置関係にあます。わたしは、国道の危険を避けるため、国道から見て、酒匂川を挟んだ反対側の道に進みました。

 このあたりは内山と呼ばれる集落があり、標高約130メートルの小さな峠道になっていました。このあたりの酒匂川の標高が約100メートルであるため、わずか30メートルの小さな峠道ですけれど、すでに4つの峠を越えてきたわたしにとって、とても厳しい峠に感じられました。

 ◆最後の力を振り絞って、本日5つ目の峠を越えました。しばらく進むと、酒匂川沿いに建設されている酒匂川自転車道に出ました。ここから約4キロメートルのあいだ、快適な自転車道を楽しみながら、小田急線・新松田駅に向かいました。新松田駅で、お蕎麦(そば)をいただいたあと、自転車を輪行して帰宅しました。押すと写真が出ます。

 ◆新松田駅に着いたときに収録しました。「今朝、走り出す前は、(5つも峠を越えるなんて)ぜったいに走りきれないと思いましたけど、走りきることができました。感無量です」と話しています。ここをクリックすると再生します。(録音時間13秒、容量108KB、MP3形式)

 ◆峠をたくさん越えた感想について語呂合わせをしました。「山越えを、6つ越えると新松田」(録音では6つと話していますが、実際は5つの間違いです)。ここをクリックすると再生します。(録音時間6秒、容量48.3KB、MP3形式)

 1日で5つの峠を越えるという初めての挑戦でしたが、無事、全行程を完走でき、とても充実した一日でした。



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