| のぞみ1号で関西へ行く。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
|
2005年早春、わたしは関西に行きました。東京駅を朝6時に出発する新幹線のぞみ1号に乗り、新大阪駅へ向かいました。この日は「明治の森箕面(みのお)国定公園」から「五月山ドライブウェイ」にかけて全行程約23キロメートルを走りました。「があ子の自転車ザンマイ」で関西を紹介させていただくのは、今回が初めてです。
箕面山を中心とする「明治の森箕面国定公園」を自転車で走るのは、ずっと以前からのわたしの楽しみのひとつでした。この公園は、明治100年を記念して東京都の高尾山を中心とする「明治の森高尾国定公園」と同時期に国定公園に指定されており、また、両公園の間は全長1697キロメートルにも及ぶ長距離自然歩道「東海自然歩道」で結ばれています。箕面山と高尾山はそれぞれ離れているものの、まるで姉妹のように深い関係で結ばれています。 東京の高尾山周辺の山林は、普段、自転車でよく走っているところだけあり、東海道自然歩道で結ばれた関西の箕面山は、前々から行ってみたい山のひとつでした。箕面山には、山猿(ニホンザル)が多数生息し、天然温泉も湧き出ています。温泉を利用した大浴場などの観光施設を備える「箕面温泉スパーガーデン」は、関西ではとても有名だそうです。国定公園の奥へ進めば、名瀑「箕面大滝」があり、勢いよく水を落としています。 |
クリックすると拡大します。
|
| 千里ニュータウンから箕面山へ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
| クリックすると拡大します。 |
朝8時30分、わたしの乗った新幹線は新大阪駅に到着しました。新大阪駅から北大阪急行電鉄に乗って終点の千里中央駅に行きました。千里中央駅は、1970年に開催された日本万国博覧会(大阪万博)の開場からすぐ近くのところにあり、この万博時代までにほぼ完成した新興住宅地「千里ニュータウン」が広がっています。千里ニュータウンは、規模の大きさや造られた年代など、東京の多摩ニュータウンと通ずるものがあります。
千里中央駅で自転車を組み立て、国道413号線を箕面山方面に北上を始めました。ここ30年あまりの間に開拓された新しい街だけあり、国道413号線沿いは、広い歩道がよく整備されていました。北上を続けると数キロメートルで山林が現れ、道は途絶えます。この山林の並びに箕面山(標高355メートル)があります。 わたしは、箕面川沿いにつくられている地方道43号線を通って、箕面山の奥へと自転車を進めました。坂を登り始めてしばらくすると、箕面に生息している山猿10数頭の群れが道路に寝そべったり、ガードレールの上で毛繕いをしていました。山猿は、もっと山の奥に住んでいるものだと思っていましたが、人里のすぐ近くまで下りてきて驚きました。 山猿の群れが、どんな暮らしをしているのかを見たくて、わたしは自転車を停めて、しばらく観察することにしました。天気がいい休日だけあり、箕面公園の奥へと続く山道は、1分間に1台くらいの頻度でクルマが通っています。サルはクルマを怖がることなく、平然と毛繕いを続けていました。 そこへ乗用車タイプのクルマ1台が路肩に停車しました。サルはクルマの助手席に乗っていた女性が菓子パンを持っているのを素早く見定め、まず1頭がクルマのボンネットに飛び乗りました。すると別の1頭が道路脇の樹木の枝からクルマの屋根に飛び移り、助手席の窓ガラスを、左手で「ドンドン」と叩きました。サルは、菓子パンをもらえるものだと思い込んで「早く菓子パンをくれ」と求めているのです。 助手席の女性は、窓を5センチほど空けました。すると屋根から助手席の窓ガラスをのぞき込んでいたサルが、その少し開いた窓の隙間から右手を差し入れ、菓子パンの切れ端を掴んで自分の口へ運びました。それを見ていた他のサルたちがクルマのまわりに群がり、大騒ぎになりました。ボンネットや屋根の上には数頭の猿が乗って餌をねだっています。助手席の女性は、サルたちの迫力に驚いたのか、窓の隙間から残りの菓子パンを投げ捨て、サルが道路に落ちた菓子パンに注意を奪われているうちに、クルマはすっと立ち去りました。 |
| 箕面の猿に餌やりはダメ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
|
クルマが立ち去ったあと、5分もしないうちに別のクルマが来て、今度はゆで卵を窓から投げていきました。ゆで卵は体格が比較的小さいサルの足下に転がり、そのサルがゆで卵を手に取ろうとした瞬間、体格が大きいサルが「キーッ」という大きな声を出して、体格の小さいサルが持っていたゆで卵を奪い取りました。体格の大きいサルはゆで卵を抱え込むように手に持ち、器用に殻をむいて食べました。
ただ、全部食べるのではなく、半分くらい残して道路に置きました。すると、先ほどの体格の小さいサルや、子供を連れた親サルが近くに寄ってきて、ゆで卵を分けて食べていました。おそらく、群れの秩序を維持するため、獲得した食料は、まずリーダー格のサルが口にして、そのあとそのサルより下級のサルたちが食べるというルールがあるようです。 わたしは20分ほどサルたちの行動を観察していましたが、そのあいだ、次から次へとクルマが来て、餌を投げていきました。このサルの群れは、道路に餌を投げていくクルマが通ることを知った上で、この周囲にうろうろしているようです。クルマを怖れるどころか、クルマの搭乗者が持ってくる餌を待っていたのです。
里からクルマで登ってくる人間の動きをつぶさに観察し、必要であれば餌をねだるサルの智恵には、ほんとうに驚きました。人間との接触が増えれば、餌をねだる行為がどんどんエスカレートして、サルとのトラブルの原因になる可能性もあります。シカやイノシシ、タヌキなど山に住む他の動物よりも頭がよく、群れで行動するため、トラブルも大きくなりがちのようです。 箕面公園の箕面市教育委員会が立てた看板には「食べ物を与えない・食べ物を見せない・近づかない」と、サルに餌を与えないよう書いてありました。箕面市は、サルが道路にたむろすることなく、本来の生活圏である山へ帰るよう、サルの群れを誘導する活動を続けているそうです。 | クリックすると拡大します。 |
| 箕面大滝と大型木製展望台。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
クリックすると拡大します。
|
サルの群れをあとにして、しばらく登っていくと箕面大滝がありました。上流の箕面川ダムから流れてきた水が、33メートル下の谷底へと落ちていきます。地方道43号は箕面大滝の上につくられているため、滝壺へはすぐ近くにある歩道を下りていかなければなりません。急な坂道だったため、自転車から下りてゆっくり滝壺まで下りていくと小さな売店があり「もみじの天ぷら」というお菓子が売っていました。 地元の方に聞くと、箕面山はモミジなどの紅葉が美く、その名物のモミジを天ぷらにして販売しているそうです。箕面は国定公園であるばかりでなく、サルやモミジ、名瀑、自然歩道、温泉と観光資源にとても恵まれたところです。都心から電車でわずか数十分のところで、これだけの観光資源に恵まれた地域は、広い関西のなかでも他にあまり例がないと思います。 地方道43号線をさらに登っていくと、箕面川ダムがありました。このダムの先には「みのお記念の森」があります。ここには経済価値の高い樹木とされるスギやヒノキがたくさん植林されていました。箕面は紅葉が美しいと言われるように、多種多様な樹木が保全され、サルが必要とする食料も、こうした木々が作り出す果実を中心としているだけに、この公園の針葉樹の多さは、逆にここでは目立つ存在でした。 これらスギ林の中心部には、木製の展望台がつくられていました。スギやヒノキがなければ、この展望台も木ではつくれなったと、この展望台は訴えているようでした。展望台は20メートル近くあり、木製としては大型です。登っている途中に、風で展望台がギシギシと揺れ、少し恐いくらいでした。展望台の頂上からは、ふもとの能勢電鉄沿いの街がよく見えました。よく晴れた日には、神戸の六甲山まで見えるそうです。 |
| 五月山ドライブウェイと猪名川。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
|
「みのお記念公園」をあとにしたわたしは、五月山ドライブウェイを通って阪急宝塚線・川西能勢口駅方面へ下りました。五月山ドライブウェイは1958年に整備され、有料ドライブウェイとしては国内で最も早い時期に営業を始めたとのことです。クルマの通行料は1台300円で、オートバイは通行できないようです。自転車が通行できるか心配していましたが、無事、走ることができました。
五月山ドライブウェイを下っていくと、急に視界が開けてきました。眼下には猪名川(いながわ)を中心に川西市や伊丹市、池田市の市街地が広がっています。ときおり、伊丹空港から飛行機が飛び立っていくのも見えます。猪名川は緩やかに蛇行しながら海の方へと続いており、その両側には、隙間もないほど、びっしりと住宅が建ち並んでいます。家ひとつひとつがマッチ箱のように小さく見え、あたかもミニチュア模型のように自分の手に取って家屋の配置を換えられるような錯覚を感じました。 すぐ近くには五月山や箕面山、足を伸ばせば六甲山など美しい山と水に囲まれ、きっと住みやすいところだと思います。ここからなら大阪など都心へ電車でわずか数十分で着きます。首都圏でたとえるなら、箕面山と姉妹山の高尾山付近の八王子や多摩センター周辺の住宅街に相当するのでしょうか? むしろ八王子や多摩センターよりも都心へのアクセスはよいのかも知れません。
五月山ドライブウェイの料金所は1か所のみで、川西能勢口駅側にありました。料金所の脇で停車し、自転車の通行料を支払おうと歩み寄ると、料金所の職員さんが「通行料は、次回通行するときに支払ってくれればいいよ」と、事実上支払いを免除してくれました。どうやら自転車からは料金を徴収していないようです。 | クリックすると拡大します。 |