| 透き通る虫の声。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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朝4時すぎ、ひんやり冷たい空気のなかで目が覚めました。泊まらせていただいたお宿は山間(やまあい)にあり、周囲の高い山にさえぎられて、まだ日の出を見ることはできません。お宿のすぐ下を流れる南秋川のせせらぎの音や、朝に鳴く鳥や虫の声だけが聞こえてきます。同行している専属カメラマンは、ぐっすりと寝入ったままです。
身支度をして、朝ごはんをいただく準備をしていたときでした。少し高台にあるお宿の下を通る地方道206号線・檜原街道をオートバイが数台走り抜けていく音がしました。わたしは「こんなに朝早くからオートバイが走るなんて、めずらしいなぁ」という程度にしか思わず、それ以上、深く考えることはありませんでした。 しかし、しばらくすると、次から次へとオートバイの大きな排気音が聞こえてくるようになりました。1台や2台ではありません。多いときは10台近いオートバイが連なって、山手の方に走っていきます。オートバイは四輪車に比べて排気音が高く、耳につきやすい特性がありますが、ここを走り抜けるオートバイの音は、この傾向がさらに強いように感じました。時計を見ると、まだ朝6時前です。 オートバイの軍団は、わたしがこれから向かおうとしている森林公園「都民の森」の方角に向かっています。少し気になりましたが、お腹が猛烈に減ってきたため、お宿の朝ごはんをいただくことにしました。 | クリックすると拡大します。 |
| 都民の森で柚子アイスを食べる。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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朝8時、お腹いっぱいに朝ごはんをいただいたわたしは、「都民の森」に向けてペダルを回し始めました。お宿のある数馬温泉から檜原街道を約4キロメートルほど山手に登ったところに都民の森があります。都民の森は標高1000メートル前後の山腹にあり、お宿との標高差は300メートル弱あります。この間、クルマの通行数より、オートバイの通行数の方が多かったように感じました。
都民の森に着いて、びっくり。あたり一面、オートバイだらけです。都民の森には大きな駐車場があり、その先には奥多摩湖まで続く「奥多摩周遊道路」が建設されています。オートバイのライダーたちは、どうやらこの奥多摩周遊道路を走ることを目的に、ここに集まってきた模様です。 まだ、朝9時少し前の早い時間帯にも関わらず、目の前に見えるだけでもオートバイが20−30台停車しています。オートバイの多さに驚きながらも、わたしは、駐車場脇で販売している「柚子(ゆず)アイスクリーム」に気持ちを奪われました。柚子アイスは、地元名産のひとつで、この地域で盛んに生産されているアイスクリームだそうです。 わたしは「奥多摩周遊道路」を経て、奥多摩湖へと自転車を進めました。奥多摩周遊道路には、本日、最大の難関である標高1100メートル強の風張峠が待ちかまえています。この峠を越えれば、標高約520メートルの奥多摩湖へと、一気に下ります。自転車で奥多摩湖に行くのは、今回が初めてです。 |
| 爆音のなかを走り抜ける。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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都民の森の休憩場で柚子アイスクリームをいただいたあと、ふと駐車場に目を向けると、少し前に比べて、オートバイの数が増えているように見えました。通常、街中を走るクルマのなかで、オートバイの比率はかなり低いはずなのですが、ここ奥多摩周遊道路周辺ではオートバイの台数比率がとても高いのに気づきました。
よくない予感がしつつも、わたしは奥多摩周遊道路へと自転車を進めました。すると、どうでしょう。無数の大排気量のオートバイが、サーキットさながらの猛スピードと爆音を立てながら、周遊道路を疾走しているではありませんか。今にも倒れそうなくらいにオートバイを傾けて、つづら折りになっている山道を駆け抜けていきます。まるで“山岳サーキット場”の様相です。 どのくらいすごいのかは、次の録音を聞いてください。この録音は、継ぎ足しなどの編集はしておらず、2分54秒のあいだ、ほとんど途切れることなくオートバイが爆音を立てて疾走していく様子が記されています。 わたしは、オートバイが突っ込んでくるのではないかと怖かったので、この間、一歩も動けませんでしたが、3台ほどの自転車ライダーの方々は、勇敢にもオートバイのけたたましい排気音を気にも留めずに、静かに山道を登っていきました。オートバイの爆音に比べれば、自転車は“無音”に近いため、残念ながら録音テープには自転車が走った痕跡を聞き取ることはできません。 オートバイの集団が来たときは、路肩で縮こまって待避しました。ある区間によっては道が細くて待避する空間がない箇所もあり、そういうときは、震えながらペダルを回しました。 通常、標高1100メートルもの高い峠を越えるときは、単純に手足の筋肉が疲労するものです。しかし、今回に限っては、オートバイのあまりの速さと耳をつんざく爆音に対する“恐怖”ばかりが先走り、筋肉の疲れを感じる精神的な余裕はありませんでした。火事場の底力のように、ぐいぐいペダルを回して、気が付いたら最大の難所の風張峠を越えていました。 いつの間にか、ペダルが軽くなり、下り坂を滑走し始めました。速度メーターは時速35キロメートルを指していて、風を切る音が聞こえてきます。自転車としては、とてつもなく早い速度で走行しているのですが、オートバイに比べれば、依然として遅い速度のようです。わたしのすぐ横を、猛スピードで追い抜いていくオートバイもあり、わたしとの速度差は、時速40−50キロメートルほどあるように思われるときもありました。 |
| 奥多摩湖が見える。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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やっとの思いで奥多摩湖が見える休憩所までやってきました。ここまで来ると、オートバイの数は、かなり減ってきます。オートバイ・ライダーの方々は、奥多摩周遊道路のある限られた数キロメートルの区間を、行ったり来たりと、ピストン運動をするケースが多いからです。
オードバイが往来する区間では、同じオートバイを何度も見かけました。逆に、わたしが運転する自転車は、そうしたライダーから見れば、山岳サーキット場を1周してきても、まだ同じような場所でペダルを回している、とてつもなく“遅い存在”に感じるのだろうと思いました。 山岳サーキット区間を抜け出たわたしは、奥多摩湖の畔で営業をしていたそば屋さんで、休憩を兼ねてお昼ごはんをいただくことにしました。昨晩のお宿の夕食に続き、地元名産をおそばを、ここでもいただけるなんて、とても幸せなことです。怖ろしい思いをして、サーキット区間を走り抜けてきた甲斐があるというものです。 おそばをいただいていると、ちょうど昼時に差し掛かろうという時間帯であったためか、たくさんのオートバイ・ライダーたちがお店に入ってきました。 多くのオートバイ・ライダーは、安全運転で、ゆっくりツーリングを楽しんでいるのですが、一部のオートバイ・ライダーが、制限速度を明らかに上回る速度と、異常に大きい排気音を立てて走行しています。すぐ目の前の道路を、大きい排気音を立てて走り行くライダーを見たごく普通のライダーたちは、“自分たちも彼らと同じだと見られたくない”といった様子で、閉口していました。 |
| JR上野原駅に向かう。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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本日、2つ目の難関は、地方道18号線上にある標高900メートル弱の鶴峠です。この峠を越えれば、あとは標高200メートル弱のJR中央線・上野原駅までの標高差約700メートルのあいだ、おおむね下り坂が続きます。
奥多摩周遊道路や地方道18号線を走ってみて感じたのですが、この道は、オートバイの通行は頻繁にあるものの、クルマの交通量は意外に多くありませんでした。昨日、走った地方道33号線・檜原街道の方が、よほどクルマの量が多かったように思いました。逆に見れば、クルマとの交通事故などのトラブルを避けたいオートバイが、好んでこの道を走っているようにも思われました。 ◆最終目的地のJR中央線・上野原駅に着いたときは、もう日暮れ間近でした。日が暮れる前に、急いで自転車を袋に詰めて、登り電車に乗って帰宅しました。 今回は、都心の井の頭公園から、標高1100メートル級のそびえ立つような峠を越え、自分の力だけで奥多摩湖まで辿(たど)り着けたことに、とても大きな満足感を覚えました。 ※奥多摩周遊道路を走るライダーのうち、一見して制限速度を超えて走っていると思われるライダーは一部です。多くのライダーは交通規則を守り、安全運転を心掛けています。 |
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