| 手頃な名峰・斑尾山へ (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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黒姫高原に行ってきました。新潟に近い長野北部の高原で、標高は700メートルほど。信州北部を代表する勇ましい独立峰・北信五岳(ほくしんごがく)が肩を並べ、野尻湖の静かな湖面が陽光をきらきらと反射させています。雪が溶けたばかりの北信地区を自転車で元気よく走りました。
いつものように、地図を眺めていて、「ここ自転車で走れそう!」と決めたのが野尻湖周辺の黒姫高原でした。何年か前に行った諏訪湖の周囲もそれほど険しくなく、自転車で快適に走れたことから、野尻湖も行けるんじゃないかと考えたわけです。標高が高く、きっと空気も澄んでいるに違いない。狙いは的中で、実際に足を踏み入れてみると、山と湖のある美しい里山が広がっていました。 野尻湖の近くには、北信を代表する5つの名峰があります。野尻湖の西側に妙高山(みょうこうさん)、黒姫山(くろひめやま)、飯縄山(いいづなやま)、少し離れて戸隠山(とがくしやま)、湖の東側にある斑尾山(まだらおやま)と合わせて「北信五岳」と呼ばれています。 湖西の4つ山はすべて標高2000メートル級ですが、湖東の斑尾山だけ同1300メートルと低い。これは、北信五岳が“野尻湖の南東に位置する志賀高原方面から望んだ風景である”ことに由来するからだそうです。南東から見ると手前にある斑尾山は大きく見え、かつ他の4岳と同じく独立峰で容姿端麗。遜色ないという理由です。 と、いうわけで、わたしは、標高的に手頃な斑尾山に登ることにしました。 | クリックすると拡大します。 |
| 黒姫高原でお宿を借りる (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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長野新幹線で終点まで行き、在来線に乗り換えてJR黒姫駅を目指します。到着したときはすでに昼過ぎだったため、この日は駅前商店街を探索しただけで、お宿へ向かいました。
もともと駅前でお宿を探そうとしたのですが、割安でごはんのおいしそうな民宿がなかなか見つかりません。調べてみると、北信と新潟の県境はスキーがとても盛んなところ。このため宿泊施設はスキー場がある山腹に密集していることが分かりました。このあたりで言えば、駅から5キロメートルほど離れた黒姫高原スキー場を中心に、すてきな民宿やペンションが点在しています。 わたしは駅前で探すのをあきらめ、スキー場近くの「黒姫温泉旅館あすなろ」さんに泊めてもらうことにしました。駅で自転車を組み立てたのち、近くのスーパーで翌日の昼食用のパンやカップ麺、インスタントコーヒーなどを調達。5キロメートル離れたスキー場のすぐ近くのお宿に向かいました。 黒姫山のなだらかなすそ野にあり、段々畑のようにつくられた養殖池では、イワナやニジマスなどの川魚が飼育されています。朝晩はとれたての川魚を振る舞っていただけるという、普段の生活では絶対に味わえない豪勢なサービスが待っています。宿へ向かう道すがら、きょうの晩ご飯のことがチラチラと頭をよぎる。魚を焼くにおいを妄想して、唾液がジワっと出てくるのを抑えきれませんでした。
とはいえ、高原にはスーパーやコンビニがないため、食料の確保は今後の重要課題。滞在中の向こう数日間、お宿へ帰投する前には、駅前スーパーでのお買い物が必須です。コンビニもあるのですが、大型ダンプなどが頻繁に通る危険な国道沿いにあるため、自転車では行きにくい。 昔ながらの商店街が並んだ駅前は、人通りが少なく、ちょっと寂しい感じはあります。でも、クルマに乗らない人に優しい町であるとの見方もでき、わたしは駅を“前線基地”として活用することにしました。お宿から片道5キロと兵站が伸び気味のきらいはありますが、贅沢は言えません。 |
| 巨大な山が一列に並ぶ (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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翌日早朝、わたしはお宿を出発。威厳ある北信五岳の一座・斑尾山へ向かいます。黒姫高原から野尻湖の南側を回り込むルートで、山麓までの距離は約12キロ。クルマの通りが多い国道を避けて、住宅街やら田畑の脇を走りました。 田んぼの畦(あぜ)にはつくしがたくさん頭を出し、沿道に植えられたソメイヨシノも今が満開… って、あれ、東京の郊外で1か月以上前に見た光景が再び目に前に現れています。ちょっとした既視感を感じつつ、ここが標高700メートルの高原だということを思い出しました。 山の方を見れば、どの山の頭も白いし、今、自転車で走っている道路脇の日陰にも、ときおり雪だるまが溶けたようなシャーベット状の塊が残っています。ここは甲信越地方でも、指折りの豪雪地帯で、5月の連休まで春スキーが楽しめるほどのところ。なるほど、春の訪れが遅くて、冬の到来が早いのが容易に想像できます。 黒姫高原からペダルを回し始めて、すぐ目についたのが妙高山。黒姫から見ると北側にあり、もうそこは新潟県。北信五岳の1つなのに、なぜ新潟にあるのかは深く考えないことにして、南側に目を向けると妙高と同じく独立峰の黒姫山が見えます。そのさらに南方には飯縄山。3つの巨大な山が一列に並んでいて壮観です。 妙高がいちばん高くて2454メートル。次いで黒姫が2053メートル、飯縄が1917メートルと南へ行くほど微妙に小振りなる。小さいといっても、たとえば飯縄の場合、足下の高原から1200メートル余りも標高差でそびえ立っているわけで、でかいことに変わりない。わたしが1日で往復できる標高差は体力的に1000メートルが限界。個人的には飯縄山でさえ登頂は難しい大きさです。 |
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| 痩せた尾根、急登続く (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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こういう大きい山は遠くから眺める方が美しい。と、いうことで妙高、黒姫、飯縄が一望できる斑尾山登頂を目指して、自転車を進めます。黒姫高原からは3座が縦一列に見えるのですが、野尻湖の向こう側にある斑尾からは横一列に見えるはずです。 斑尾は1381メートルと他の4座に比べて明らかに低い。平野部がすでに700メートル近くあるため、実際に登るのは600−700メートルほどでしょうか。おまけに、5合目くらいまで林道沿いに自転車で行けます。これは楽勝…のはず。(このときは、そう思っていました。汗) しかし、林道は未舗装部分が多く、しかも勾配が10%(100メートル走って10メートル登る)くらいの箇所もある。ほとんどが押し歩き。さらに、自転車を停めて、徒歩で登り始めてからの登山道は急登の連続でした。 まず、尾根に取りついてから山頂に進むのですが、次第に道が痩せていく。歩く距離は2キロ弱と短いものの、傾斜がきついうえに尾根が細くて歩きにくい。いくら北信五岳のなかで標高がいちばん低いといえども、なめちゃダメですね。
樹木の幹に巻き付けられた案内板をふと見ると「蟻のと渡り」と記されていました。「蟻の−−」といえば、五岳のなかで最も西側にある戸隠にもある。その山稜は半端ないほど尖ったナイフリッジで、四つん這いになってやっと渡れるほどです(写真で見ただけですが。苦笑)。蟻が一列になって渡るようなので、こういう言い回しをするのでしょうが、まさか斑尾にも同じ地名があるとは意外でした。 |
| 野尻湖の囲む一大パノラマ (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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同行の専属カメラマン(専カメ)に持たせてある高度計を見ると、着実に山頂へ近づいていることが分かる。雲がずいぶん低く感じられるようになったので振り向くと、眼前に野尻湖を囲む一大パノラマが展開されていました。ところどころ明るい緑色をした丘陵が見え、その向こうに飯縄、黒姫が並ぶ。右手の方には波の静かな湖面が柔らかい光を反射しています。
手足を踏ん張って最後の急登を越えると大明神岳に着きました。山頂よりわずかに手前ですが、見晴らしは抜群。ここでお弁当を食べることにします。本日持参してきたのは、カップラーメンとインスタントコーヒー。さっそく登山用の携帯ガスコンロに火をともす。ラーメンのカップに沸騰した湯をすべて注いだあと、今度はコーヒー用の湯を沸かします。 大地や山、湖からなるダイナミックな地形。白い雲が浮かぶ青い空が視界いっぱいに広がる。右側から妙高、黒姫、飯縄と独立峰が並び、左へ目を向けると長野市街の方まで見通せます。鍋がコトコト音を立て始めたので、少し慌ててガスの元栓を締め、熱湯を紙コップに注ぐとコーヒーのいい香りがたちこめてきました。 すそ野は、緩やかな斜面ばかりでなく、どことなくゴツゴツした感じもあります。このあたりの山の多くは火山で、高原そのものが何万年か何十万年か前の噴火のときに吐き出された溶岩で形づくられたからなのかも知れません。手前に見える野尻湖も火山活動による噴出物や隆起やらでせき止められたという説が有力。今の緑に覆われた美しい風景からは容易には想像できませんが、有史以前、荒々しい自然の横顔が垣間見れた気がします。
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| 山頂には雪の塊が残る (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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普段は何げなく食べている200円のラーメンでも、汗を流して登った絶景ポイントでは、格別な味わい。行列ができる幻の高級ラーメンとぜんぜん遜色ないし(そんなラーメン食べたことないけど、きっと劣らないはず!)、インスタントコーヒーも挽き立ての豆でいれた以上のコクと香り。容姿端麗な妙高や黒姫、飯縄の三座の前の広大な空間に吸い込まれそうになりながらも、胃袋だけはしっかり満たしました。
しばらく休んで足取りもしっかりしてきたところで、山頂に赴くことにします。稜線を歩いて10分ほどで到着。見晴らしがきくわけではなく、意外に地味なところでした。山頂を示す三角点がなければ、うっかり通り過ぎてしまうくらい。でも、すみの方には雪が大型ダンプ1台分くらい残っていて、標高が高いことを実感しました。気温は20度ほど。寒いというより、むしろ汗ばむくらいなのですが、目の前は雪景色という何ともアンバランスな光景です。 記念写真を撮ってから下山します。眺望すばらしい大明神岳まで戻り、足を踏み外さないよう、慎重に歩を進める。登るより、下りるときの方が神経を使います。ただ、救いは五合目に自転車が停めてあるってこと。登ってくるときは歩きとほとんど変わらない遅さでしたが、帰りは楽。未舗装でも下り坂なら時速10数キロは出せるわけで、歩きのざっくり3倍。時間を大幅に節約できますので、下りに思いのほか時間がかかったとしても、精神的には余裕があります。
自転車を停めてあるところまで戻ればこっちのもの。安全運転で黒姫高原のお宿まで帰りました。北信五岳を舞台にしたツーリングレポートは、まだまだ続きますよ。次回は「天の岩戸が隠された霊峰・戸隠山を望む」です。ここをクリックするとリンクします。 |