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八丈島の七不思議“ポットホール”を探訪
2007年、夏の思い出特集
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底土港で東海汽船を見送る (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 八丈島ツーリングレポートの第2回目は、“八丈七不思議”のひとつ「ポットホール」です。三原山から染み出る清流が、長い年月をかけて少しずつ岩を削ってできた自然の彫刻。壺の底ような穴が、水の流れに沿っていくつも連なっています。(第1回目のレポートはここをクリック)

底土(そこど)港の桟橋から東海汽船を見送る。船は大風と波に揺れながら東京へ向かう。

 わたしは島の玄関・底土(そこど)港から三原山へ向かう登龍(のぼりょう)峠へ自転車を進めることにしました。

 この日はあいにくの曇り空。おまけに強い風が吹いている。島の風は並大抵の強さではありません。ちょっとした台風に出くわしたようなもので、山頂や岬など風の集まりやすいところに出ると吹き飛ばされそうです。

 ただ、遮るもののない外洋の風向きは、ほぼ一定した単調なもの。山陰に入ると急に穏やかになります。きょうは西からの風なので、東側の斜面から三原山の南側斜面にあるポットホールを目指します。

 朝10時。東海汽船の出航時だったため、見送ってあげることにしました。港に出てびっくり。波が予想以上に高く、着岸している“かめりあ丸”が大きく揺れています。っていうか、よく横付けできたものだと感心しました。港といっても海に突き出た桟橋がひとつあるだけの簡易なつくり。波の影響を受けやすく、船の欠航もしばしば。桟橋に波がかぶった時点でアウト。

 無理に接岸しようものなら、船の横っ腹を桟橋のコンクリートにぶつけて下手すれば沈没もあり得る。とても危険です。

 このため、西風の日の東海汽船の寄港先は東側の底土港。東風の日は西側の八重根(やえね)港に入港することで定時運行に努めています。ただ、入港当日まで島のどちら側に船が着くのか分からないため、土地勘のない観光客は要注意。

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今回の活動エリアを示した図です。クリックすると拡大します。
島全体を示した図に走行ルートを記入。空港や三原山、市街地の位置関係も分かるようにしました。ポットホールは三原山の東側にあります。
泊まらせてもらった民宿・菊水さんの前にて。島のほぼ中央部の大賀郷にあり、ここから時計回りに三原山の山腹を一周しました。
通りかかった底土港では、東京行きの東海汽船・かめりあ丸が出港の準備をしています。
今朝は強い西風のため、島の東側にある底土港に入港。長居はせず、客や荷物を載せ替えるとすぐに出港します。
巨大な龍の壁画が踊る登龍峠 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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【詳細図】走行ルートの詳細図。黄色い破線区間がポットホールに通じる「こん沢林道」です。
走行ルートの標高差を示した図です。こん沢林道の最も標高が高い地点は約450メートル。全行程は約30キロメートルでした。
底土港を離れる東海汽船。どんどん小さくなります。強い横風と海流で少し傾いている。
登龍峠に続く地方道。標高300メートル余りの峠までただひたすら登りが続きます。
登龍峠の巨大な龍の壁画。わたしの背より高く、長さは10メートルを越える威容。天に昇る勢いです。
登龍峠の案内板−1−
登龍峠の案内板−2−
登龍峠からの展望。眼下に底土港が小さく見える。晴れた日には正面に八丈富士の勇姿が望めます。

 かめりあ丸は旅客を満載して10時少し過ぎに出港。横風と海流に押されて少し傾いているように見えますが、この程度のことで沈むようなやわな船ではなく、速度を上げながらどんどん大海へ乗り出します。今夜遅くには東京・竹芝桟橋に着くことでしょう。

お忙しい方も、この動画だけ見ればだいたいの雰囲気がつかめるよう編集しました。ウインドウズ付属のウィンドウズメディアプレーヤーで再生できます。(再生時間2分44秒、ファイル容量20.2MB、ビットレート2914Kbps、WMV形式)

 わたしは本日午前の部の難所、登龍(のぼりょう)峠に向けてペダルを回し始めました。地形測定ソフトを使ってあらかじめ予想はしていたのですが、予想通りの急な上り坂で参った。

 蛇行しながらぐんぐんと高度を上げていき、もう少しで標高300メートル余りの峠に差し掛かろうとしたところで、巨大な龍が姿を現す。土砂を防ぐコンクリート製の側壁に見事な銀色の龍が形づくられています。ずっしりとした存在感。ブロックを貼り付けたモザイク状の壁画で、大きさはわたしの背より高く、長さは軽く10メートルを越える威容ぶりに驚きました。

 ぎょろっとした鋭い目を剥いた巨龍の横を通り、さらに登ると登龍峠。峠は風の通り道になっているため、猛烈な風が吹き抜けます。飛ばされないように身をかがめながら、峠に整備された展望公園の「登龍園地」から望みました。

 きょうは雲が低く垂れこめていますが、眼下にはさきほど東海汽船を見送った底土港が見えます。海面が波立ち、ここと同じように強く風が吹き付けているようです。正面方向はガスに視界を遮ぎられ、目の前にそびえ立つ八丈富士でさえ、やっとすそ野が見える程度。

 でも、晴れた日には八丈富士はもちろん、東京寄りに100キロほど離れた三宅(みやけ)島や、その手前に浮かぶ小さな御蔵(みくら)島まで見えるそうです。

登龍峠のいしぶみの前にて。展望台が整備され、底土港や八丈富士を一望できます。

 ◆登龍峠で録音しました。「きょうは西風が強くて曇っています。底土港に入港した東海汽船が大きな波に揺れていました。ここまで登ってくる途中も風に煽られて倒れそうになりました」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間53秒、ファイル容量627KB、MP3形式)

 ◆登龍峠での録音の続きです。風の音に遮られ、声が聞き苦しくてすみません。「ここから底土港がよく見えます。強風で海が荒れています。自然の厳しさを目の当たりにしました」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間51秒、ファイル容量607KB、MP3形式)

ポットホールに大接近 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 ここから午後の部のスタート。本題のポットホールに大接近です。登龍峠から道なりにしばらく進むと、三原山山腹を横切る“こん沢林道”の入り口が現れます。道幅は細いものの、ほぼ全域、舗装された全長約6キロほどの林道で走りやすい。

ポットホールへ続く“こん沢林道”の入り口にて。林道はクルマがあまり通らず、のんびりできます。

 林道に入るとクルマも通らなくなり、静寂さが増します。並大抵ではない強風が吹き荒れる日も多く、すらりと背を伸ばした木は見あたりません。どれも身をかがめて、互いに寄り固まるような姿勢。しっかりと地面に根を下ろしています。木陰は湿度が高く、シダ植物がびっしり生えて、まるで緑の絨毯のよう。

 島の東側の斜面に位置していますので、朝から吹き荒れる西風は、文字通り“どこ吹く風”。静かなものです。南の島のジャングルのように繁茂した木々の間から聞こえてくる野鳥の声に耳を傾けながら坂道をじわじわと登る。こん沢林道の標高が最も高いところは約450メートル。途中にポットホールを間近で観察できる場所があります。

 ポットホールは、川床の岩盤のくぼみが大きくなったもの。くぼみに入り込んだ小石が、水の流れによって転がってくぼみの壁を長い年月をかけて削る。丸い鍋か壺の底のような形なるためポットホールと呼ばれています。三原山のポットホールは大小さまざまな円形の穴がいくつも連なり、何百メートルもの“壺の行列”を形づくる規模の大きさ。全国的に珍しい大規模なもので、八丈島の七不思議のひとつです。

こん沢林道を走っていると、大きな水瓶がいくつも連なった大規模なポットホールが姿を現しました。

 海に囲まれた八丈島ですが、淡水はきわめて貴重です。海洋性の気候の影響で降水量は多いのですが、平野が少ないために、山から染み出た水は海へまっしぐらに落ち込む。透水性の高い火山の粗い地質は貯水力に乏しく、山に入っても沢らしい沢はほとんど見られません。ポットホールを形づくった沢も、途中で火山礫(れき)の下へ再び染み込んでしまうのではないかと思えるほどのか細い水量。その貴重な水源によって、ポットホールが刻まれたと考えると感慨深いものがあります。

 ◆ポットホールで録音しました。「ここはシダ植物や天然林に覆われ、鬱そうとした森が茂っています。小さいながらも沢や滝も見られました。ただ、その多くは海までもたず、粗い火山礫のなかへ吸い込まれてしまいます。後半部分は三原山に生息する野鳥のさえずりを録音しました」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間1分16秒、ファイル容量891KB、MP3形式)

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登龍峠に整備された展望公園「登龍園地」から底土港を望む。
こん沢林道の案内図。ポットホールは島を周回する幹線道路から外れた林道沿いにある。途中、休憩所もあります。
こん沢林道にある休憩小屋。この地区で栽培した杉を使ったそうです。
休憩小屋で小休止。贅沢な杉をふんだんに使用。足を踏み入れると木材のいい香りがします。
林道に入ると沢がありました。島では貴重な水源です。
大小さまざまなポットホールが並ぶ。壺や鍋というより、まるで浴槽みたいに大きなものもあります。
正面から縦位置で撮影。
何かの花粉に反応したのか、くしゃみがとまりません(すみません)
わたし選・八丈島七不思議 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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水源に恵まれていることもあり、シダ植物や天然林が繁茂。野生の姿を垣間見た思いです。
こん沢林道を抜けて末吉の集落まで下る。厳しい自然のあとの人里は、いつもより温かく見えます。
島を周回する幹線道路へ続く道。写真ではよく分かりませんが真正面に海が見えます。
こん沢林道の出口にも案内表示が設置されてまいす。周囲にはかわいらしい花壇も。地元の方々の優しい思いが伝わってくるようです。
灯台がありました。その向こうには海が果てしなく広がる。

 さて、“七不思議”なので、残り6つの不思議に触れないわけにはいきません。第一不思議が三原山のポットホールであるのは上述の通り。人間とは桁違いの長い時間軸を持つ自然だけがなせる技であり、不思議そのもの。第二から第七不思議までは以下に列挙します。自然的なものから人間的な不思議まで幅広いです。

〈第二不思議〉  観光客に人気のある八丈富士山頂のお鉢まわりは、道が痩せて、滑りやすく、突風にさらされるのに、「滑落した」という話しはあまり聞かない。尾根の両端が両側に切れ落ちた幅30センチほどのナイフエッジもあり、四つん這いになって取りつかないと風に煽られて危険。

〈第三不思議〉  夏の夜に打ち上げられる八丈島の花火は反則的なまでに美しい。長岡や諏訪の規模には到底及ばないこぢんまりしたもの。でも、どこまでも広がる暗黒宇宙のような夜の海にきらきらと輝き、儚(はかなく)く散る様子は、見る人の心をつかんで放さない。

〈第四不思議〉  海水浴の盛んな八丈島だが、実際に泳いでいる人はあまり見かけない。海流が渦を巻いて押し寄せ、まるで大河に浮かぶ中ノ島のよう。沖合いに泳ぎ出たら最後。二度と戻ってこれないだろう。しかし、幸いにも遊泳の人が流されていく姿をわたしは発見できていない。

〈第五不思議〉  八丈名産の明日葉(あしたば)は、八丈島で食べるとこの上もなくおいしいのだが、島を離れると普通の香味野菜に身をやつしてしまう。

〈第六不思議〉  八丈島の男はかっこいい。絶海の孤島という不安定な環境では、会う人誰もがミステリアスな魅力を持っているように見える。最近、頭の毛が加速度的に薄くなる専属カメラマン(専カメ)を横に立たせれば、なおよく引き立ててくれるのは間違いない。

〈第七不思議〉  八丈島の青春は何度でもやってくる。なま温かい潮風が頬をなでる夏の夜、若い男女数人の乗り合うクルマが、ダンスミュージック風の音楽をドゴトコ鳴らして繁華街のある三根方面へ行く。そして、10分もしないうちに戻ってくる。しばらくすると、また三根方面へ走り抜け、また…(以下略)。八丈島は往復運動でもしない限り、クルマで走るには小さすぎるのだ。ちなみに観光客のマイカー持ち込みはできません。

末吉から時計回りで帰る (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 ポットホールを後にしたわたしは、東端の集落・末吉(すえよし)まで林道づたいに下りてきました。ちょっとした商店や自販機、小学校があります。密林に埋もれた山腹から出てきたわたしにとって、ほっと一息着ける人里。ジュースを買ってしばしの休憩をとりました。

末吉の近くにある展望施設「名古(なこ)の展望」にて。ここは私有地で、立ち入るには管理者の方にいくらか支払う必要があります。

 島を一周する県道を時計回りに帰ることにしました。三原山のすそ野をぐるりと取り巻くようにつくられた道で、けっこうなアップダウンがあります。末吉の隣町の中之郷までは150メートル近くの標高差がある峠越えがあり、さらに坂下までいく途中にも約50メートルの峠が待ち構える。体力を使ったあとの50メートル登坂はけっこうきつい。

 尖った山頂から伸びる急斜面がそのまま海へ突き刺さるのが火山島の特徴。海岸線は外洋の荒々しい波に浸食され、断崖を形づくっています。大きな川がないために土砂が堆積せず、崖がどんどんと成長してしまったのでしょう。自然の厳しさを感じざるを得ません。

 ただ、そうした自然と人間との緊張関係があるがゆえに、起伏の合間に時折見える山や谷、どこまでも広がる海は絶景そのもの。人を寄せつけない孤高の美しさです。「あぁ、八丈島に来てよかったなぁ」と、心地よい疲労感と満足感がこみ上げてきました。

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展望施設「名古の展望」から八丈島南端の岬・小岩戸ヶ鼻を見る。足がすくむような断崖。眼下の小さな漁港以外は、人の上陸を拒む自然の要塞のよう。
幹線道路には、等間隔で番号のついた標識が設置してあります。自分の居場所が一目瞭然で便利。
樫立の集落で乳酸菌飲料をいただきました。疲れた体に効きます。
お宿での夕食。わたしの大好きなお魚がいっぱい。自転車で運動したあとの晩ご飯はまた格別です。


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