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仙石原から大涌谷・明神ヶ岳へと大接近
2005年、夏の思い出特集−第4弾−【後編】
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朝から大混雑。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 2005年初秋、箱根・仙石原はススキの穂が金色に輝く季節でした。お宿を朝8時過ぎに出発。朝ご飯をたっぷりいただいてから自転車のペダルを回し始めました。きょうは、仙石原のススキや火山ガスが吹き出る大涌谷など箱根を代表する観光地を巡ったあと、標高1169メートルの明神ヶ岳に大接近します。

箱根・大涌谷にて。後ろに白く見えるのが火山ガスです。

 仙石原のススキの大草原に足を踏み入れて、まずその人気の高さに驚きました。まだ朝早いというのに、たくさんの観光客の方々で賑わっています。ここは表参道か、原宿かと思うほどです。後日、箱根に詳しい職場の同僚に聞いたところ「シーズン中の週末は、いつも人やクルマで列をなすほどの大混雑になる」と話していました。

 このあたりはロープウェイやケーブルカーの駅から少し離れており、マイカーで来る方が比較的多いようです。その割には駐車場がわずかしかなく、停める場所を求めて右往左往するクルマの姿が見られました。違法駐車を排除するためのガードマンが要所要所に立っており、速度を緩めたクルマを見つけてると「早く通り過ぎるように」と指導していました。マイカーの運転手さんは「駐車場はどこか?」と逆にガードマンに尋ねるなど、早朝から混乱しているようでした。

 自転車のわたしでさえも停める場所が見あたりません。集落のある区域や民有地の入り口にはロープが張られ、マイカーが進入して違法駐車されるのを阻止しています。やむを得ず、すぐ近くにいたガードマンに了承をいただき、ロープの少し内側の雑木林の隅に停めさせてもらうことにしました。

 立木に自転車をくくりつけたあと、ふと周囲を見ると、若い夫婦がベビーカーに乗せた子供のおむつを替えていたり、登山客らしい格好をした年配のグループがパンを頬ばっていたりしています。道路に面した場所は、どこもかしこもクルマと人でごった返しなので、少し奥まった静かな木陰で休憩をとっているようです。わたしも水を飲んで一休みしてから、ススキの大草原に向かいました。

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今回の活動エリアを示した図です。クリックすると拡大します。
2日間の自転車ツーリングの往路と復路を示した図です。
往路・復路の走行ルートを立体的な地図で示しました。地形測定ソフトのカシミール3Dで制作しました。
仙石原近くのお宿でおいしい朝ご飯をいただきました。
仙石原に広がるススキの大草原。金色に輝いています。
ススキの大草原。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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【図1】走行ルート前半部分の詳細図です。仙石原から大涌谷、宮城野温泉までのルートを示しました。
仙石原から小田原までの走行ルート全体の標高差を示した図です。カシミール3Dを使って制作しました。
黄金の巨大な絨毯が山の中腹から垂れ下がっているようです。
ススキの草原の中を通る登山道を中腹付近まで登りました。
ススキの多くはわたしの背丈よりも大きく伸びています。
ススキの大草原から有料道路「箱根スカイライン」(自転車通行不可)が通る長尾峠の方面を臨みました。あの切り立った尾根の上に道路が通っているなんて驚きです。

 ススキの大草原は山の斜面いっぱいに広がっていました。茎や葉はまだ緑色ですが、穂は金色に輝いて見えます。下から見上げると黄金の巨大な絨毯(じゅうたん)が山の中腹から垂れ下がっているようです。草原の真ん中を横切る1本の登山道沿いに登り、今度は山の上から見下ろしました。黄金の絨毯は道路の向こう側まで広がっていて、想像していた以上に大きいものでした。

ススキの大草原の中に1本の登山道が通っていました。

 ここは「箱根仙石原湿原植物群落」として1934年に国の天然記念物に指定され、以来長期間わたって湿原の保護がなされてきました。ススキの大草原が出現する背景には、地元の方々の絶え間ない努力があるようです。秋は一面のススキに覆われますが、春や夏は湿原を好む多様な植物が見られるそうです。

 天然記念物級の大湿原は、これまで福島県など複数県にまたがる「尾瀬」や北海道の「釧路湿原」しか知りませんでした。東京都心からほど近い標高約650メートルのこのような高原に大湿原が広がっていたなんて、わたしにとって新しい発見でした。今回は時間の関係で立ち寄れませんでしたが、仙石原の湿原環境を利用した植物園「箱根湿生花園」も人気スポットのひとつです。

 仙石原湿原を後にしたわたしは、火山ガスが吹き出る大涌谷を目指しました。時間がたつにつれてマイカーや観光バスがどんどん増えているため、別荘地の中を迂回して行くことにしました。別荘地区域なら、さすがにクルマの通りも少ないだろうと考えたからです。

 今回、迂回路に選んだ別荘地は「温泉荘」で、箱根地区の中でもとりわけ大規模な施設が密集しているところです。昨日通った春山荘は木造で民家風の別荘が多かったのですが、ここは大企業が建てた大きな別荘が多く、鉄筋コンクリート製のホテルのような建物も見られました。NECソフトや日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、日本郵船、花王など日本や世界を代表する名前が並び、大人数が収容できるようです。【詳細図1参照】

 社員の保養地というより、大切な顧客の経営トップを招いて行われるエグゼクティブセミナーなどの開催地として利用されているようでした。上流階層のリッチな方々が高級外車で訪れる姿が連想できる土地柄だけあって、道沿いのレストランや和風料理店も高級感の演出に力を入れています。中には「子連れ客お断り」と看板を掛けた店もあり、大人だけの静かな店づくりを心がけていることが伺い知れました。

大渋滞。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 温泉荘あたりから登り斜面がきつくなります。大涌谷の標高は1050メートルほどあり、仙石原からは標高差で約400メートル登る必要があります。さらに温泉荘から大涌谷までの2キロメートルあまりはクルマの通行が非常に多い道路を通らなければなりません。

 わたしは覚悟を決めて大涌谷への坂道を上り始めようとしたところ、クルマが列をなして停車しているではありませんか。運転手がハンドルを握ったままぼんやりしているところを見ると渋滞しているようです。クルマの横に空いたわずかな隙間を進みましたが、信号機や交通事故など渋滞の原因になるようなものは見つかりません。

 大涌谷への道は一本しかないことを考えると、頂上にある駐車場が満車になっていることが渋滞の原因になっているようです。駐車場から1台降りてくると、1台分クルマが進むという具合です。時間はまだ午前11時頃と早いため、大涌谷から降りてくるクルマはほとんどなく、渋滞が解消される兆候はほとんど見られません。

 自転車で登っていくには、クルマが停まっていてくれた方が安心ですが、ドライバーにしてみればたまったものではありません。みんな一様に沈んでいるのか思ったら、実はそんなことはなくて、渋滞を楽しんでいる人もところどころで見られました。クルマを追い抜くとき、急に開いた左側のドアに衝突しないよう、車内の人の動きを窓越しにチェックするのですが、そのとき車内のさまざまな様子が見えてきます。

 若いアベックが乗ったクルマの中には、眠そうにハンドルにもたれかかる男性と助手席で一心不乱に携帯電話のメールを打ち続ける女性の姿が見られましたし、家族連れのワンボックスカーでは、ハンドルを握るお父さんには目もくれず、後部座席で子供といっしょにお弁当を頬ばるお母さんの姿。または、おしゃべりに花を咲かせて渋滞もまったく気にならない様子のパワフルな女性3人組が乗った軽自動車など、見ているだけで楽しかったです。

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ススキの大草原の中を通る幹線道路は朝から大渋滞です。写真の中央左側をよく見るとクルマの屋根が連なって見えます。
道路の向こう側までススキの大草原が広がっています。この一帯は1934年に箱根仙石原湿原植物群落として国の天然記念物に指定。以来、湿原の保護が続いています。
迂回路で通った温泉荘の案内図です。NECソフトや日本IBM、日本郵船、花王など日本や世界を代表する企業名が並んでいます。
温泉荘にて。予想通りクルマの通りはとても少ないものでした。写真左側の道路を上っていくと大涌谷へ通じる幹線道路に出ます。
大涌谷。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)
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大涌谷の入り口には毒性のある火山ガスに注意するよう促す案内板が立ててあります。
火山ガスや熱湯、土壌流失などによって、草木がほとんど生えないエリアがあります。ゴツゴツとした岩がむき出しています。
岩のすき間から白く濁った温泉がしみ出しています。手で触ると熱いくらいです。
湧き出る温泉を一目みようと、たくさんの観光客で賑わっています。
温泉を浴槽のような池に溜めている場所がありました。熱くてとても入れそうにありません。
大涌谷の中腹から駐車場を見下ろした写真です。満杯の駐車場が渋滞の原因になっています。
写真正面の少し雲がかかっている山が富士山です。手前に見えるゴルフ場の付近が仙石原で、その向こうに横たわる山脈の尾根に箱根スカイラインが通っています。
「かながわの景勝50選」に選ばれているという趣旨の石碑が建てられていました。

 大涌谷では火山ガスとともに白く濁った温泉が湧き出ていました。熱湯に近い高温を利用して、地元名産の温泉たまご「黒たまご」も生産されていました。湯煙とともに有毒な亜硫酸ガスや硫化水素ガスも噴出しているため、風下にいると目や喉が痛くなってしまうほどの強い刺激があります。長時間滞在するのは困難なくらいです。

ふつふつと湧き出る天然の熱湯を利用して地元名産の温泉たまごが生産されていました。四角い鉄の枠の中でたまごをゆでています。

 ◆大涌谷で録音しました。「大涌谷まで上ってきました。あちこちから硫黄ガスが吹き出ています。目の前には雄大な姿の富士山がよく見えます。」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間23秒、ファイル容量181KB、MP3形式)

 ◆大涌谷の火山性ガスについて録音しました。「麓の仙石原から登ってくる途中で、すでに硫黄のにおいがしていました。しかし、噴煙地である大涌谷は、それを遥かに上回る濃度の火山性ガスが周囲一面に立ちこめています」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間28秒、ファイル容量221KB、MP3形式)

 ◆温泉たまごについて録音しました。「大涌谷から湧き出す熱湯を利用して、たまごがゆでられていました。温泉の鉱物の影響からか、たまごは黒く色づいており、『黒たまご』として売られています。観光客の多くが大涌谷名産の黒たまごをおいしそうに頬ばっていました」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間57秒、ファイル容量445KB、MP3形式)

 熱湯と有毒ガスのためか周囲には大きい木はほとんど生えておらず、山肌が露出しています。まるで地獄谷のような厳しい自然環境ですが、ふつふつとたぎる温泉は有効成分を豊富に含んでおり、箱根の人気を支える源泉になっています。ちくちくと痛む目や喉をこらえながら斜面を登っていくと、急に視界が開けて雄大な富士山が姿を現しました。ちょうど仙石原の向こう側に見える位置で、すばらしい眺めです。

 少し目線を下に向けると渋滞の原因になっている駐車場が見えました。150−200台ほど停車できるスペースがありますが、完全に満車です。その向こうには小田原駅から登ってくる箱根登山鉄道と接続している箱根ロープウェイの大涌谷駅が見えます。渋滞に巻き込まれることを考えれば、ロープウェイの方が便利かも知れません。

大涌谷から見える雄大な富士山をバックに写真を撮りました。

 ◆ロープウェイについて録音しました。「大涌谷までは強羅温泉からロープウェイで上ってくることもできます。マイカーでも来ることはできますが、大涌谷の駐車場が狭いこともあって、休日は大渋滞になることが多いようです」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間24秒、ファイル容量187KB、MP3形式)

 もくもくと湧き出る湯煙や富士山をうっとり眺めていたら、あっという間に1時間余りの時間が過ぎ去っていました。帰りもまだ長い道のりが待っているので、大涌谷を降りて小田原方面に戻ることにしました。駐車場で自転車に巻き付けてある盗難防止ワイヤーを外していると、見覚えのある軽自動車が登ってきました。わたしが温泉荘を出たところで渋滞の最後尾にいたクルマです。わずか2キロメートル余りの道のりを2時間近くかけて登ってきたようで、渋滞の激しさを物語っていました。

道を間違える。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます)

 昨日通った宮城野温泉までは、ほぼ一貫した下り坂で、あっと言う間に着いてしまいました。ここから往路と同じ久野林道に入り、途中で「ワルシャワ林道」へ進路を変更。小田急線・新松田駅方面へ抜ける計画を立てました。【詳細図2参照】

南足柄市の林道から小田原市街地、相模湾方面を望みました。

 ワルシャワ林道とは小田原と南足柄市の山林部分に広がる林道の総称で、付近を流れる和留沢(わるさわ)にちなんで、わたしが勝手に名づけたものです。この辺りは林業が盛んな地域で、木材を運び出すための林道がとても発達しています。複数の林道がまるで迷路のように入り組んでおり、この中で新松田駅方面へ抜けるルートをワルシャワ林道と位置づけています。途中には600年余りの歴史を持つ大雄山最乗寺などのランドマークもあります。

 2004年夏に新松田駅方面から大雄山最乗寺を経由して、ワルシャワ林道沿いに久野林道のすぐ近くまで来たことがあります。ところが、途中で道に迷うなどして時間をロスしてしまい、完走できませんでした。今回は、前回の逆のルートで新松田駅を目指そうと考えたわけですが、また道を間違えてしまい挫折してしまいました。

 本来は下り坂でなきゃならない区間が登り坂だったので、すぐに道の間違いに気づきました。ただ、そこの林道からの展望がすばらしく、小田原市の市街地から遠く相模湾まで一望できます。あまりに美しい眺めだったので、「この林道がどこまで続いているのか確かめたい」と思い、敢えて冒険してみることにしました。

 久野林道からの道のりは基本的に登り坂が続いていたため、もし行き止まりになっても問題なく小田原駅方面へ引き返せる手応えがありました。自転車に乗って下り坂を下りるときは、登り坂に比べて3−5倍の速度を出すことができるからです。どんなにゆっくり下っても日暮れまでには山を下りられそうです。

ワルシャワ林道から数キロメートル進んだところで行き止まりに。小田原駅に向けて折り返しました。

 結局、数キロメートルほど進んだところで林道は行き止まりになってしまい、方向転換して小田原駅へ下りました。あとから地図で確認してみると標高1169メートルの明神ヶ岳の近くまで登ったようです。新松田方面まで行く本来の目的は達成できませんでしたが、予定外の大パノラマを楽しめて大満足でした。間違えた箇所もはっきり覚えていますので、次回はワルシャワ林道を完走できる自信が持てました。

 黄金に輝くススキに覆われた仙石原、ふつふつと温泉が湧き出る大涌谷など箱根の魅力は尽きません。主要な道路にクルマが多いのは難点ですが、これも林道や別荘地の中を通ることである程度回避できます。クルマに怯えることなく箱根・仙石原の快適な自転車ツーリングを満喫できたことに達成感を覚えました。またぜひ足を運んでみたいと思います。

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【図2】宮城野温泉から小田原駅までの走行ルートを示した図です。進み誤った道は青色で、本来の正しい道は黄緑色で記しました。
道を間違えた三叉路。右がワルシャワ林道の本筋。間違って左側の道へ進んでしまいました。
小田原市から南足柄市にかけての山野は林業がとても発達しています。写真正面に小田原の市街地や相模湾が見えます。
登り坂がきつくなったため、押して歩くことにしました。
展望を楽しみながら休憩しました。あたり一面、材木の原料となる杉などの木々が植えられてます。
標高1169メートルの明神ヶ岳の近くまで登ったところで、道は完全に途切れてしまいました。
下り坂を軽快に駆け下りました。小田原駅に向けてまっしぐらです。


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