| 井の頭公園を出発。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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2005年春、多摩川上流にある滝山城(たきやまじょう)跡に行きました。季節はちょうど桜の咲く頃で、滝山城跡への沿道には、たくさんの桜の花が咲いていました。昨年の同じ頃にも滝山城跡へ足を伸ばしていますので、春の滝山城跡に行くのは今回が2回目です。わたしは活動拠点にしている井の頭公園(三鷹市)から30キロメートルあまり離れた滝山城跡に向けて、元気よく自転車のペダルを回しました。
昨年の桜の頃、滝山城跡で、わたしは都心ではあまり見られないヒキガエルに出会いました。普段、ヒキガエルは山の中で暮らしていますが、桜の季節になると沼や池の近くに姿を現し、たくさんの卵を水のなかに産みつけます。ヒキガエルは、国内のカエルの仲間では最大の体長12センチほどの大きさまで成長し、肉付きがよく、貫禄たっぷりの風格で、ノッシノッシと地面を歩きます。そのヒキガエルの勇姿は、わたしに鮮烈な印象を与え、深く印象に残りました。 そして、1年たったある晩、わたしはヒキガエルの夢を見ました…。 山道を自転車で走っていると、ヒキガエルが目の前に現れました。わたしは「あなたは誰ですか?」と聞くと、「この沼を治めている者だ」と、すぐ脇にある沼を指さして答えました。指の指す方向を見ると、小さな沼があり、たくさんのヒキガエルが水浴びをしていました。「あなたは沼の神様ですか?」と聞くと「いかにも」と答え、「神聖な沼に足を踏み入れないように」と、沼のルールを教えてくれました。 判断力が著しく低下している夢のなかの出来事だったので、どうしてヒキガエルが言葉を話せたのか、どうしてわたしが初対面の相手に「神様ですか?」と聞いたのかは、説明がつきません。夢を見たあと、わたしはすぐに目が覚めました。まだ夜が明ける前で、夢のなかで自転車のハンドルを握っていた手は、強く汗を握りしめていました。桜の季節が巡ってきたことで、潜在化していたヒキガエルの記憶が呼び起こされ、夢に出てきたのだと思います。 夢で見た沼は、昨年行った滝山城跡にある沼によく似ていたことから、「これは、きっと滝山城跡に来いというサインに違いない」と、勝手に思い込み、桜の時を待って滝山城跡へ“沼の神様”に会いに行くことにしました。 | クリックすると拡大します。 |
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滝山城跡は、標高150メートルほどのこんもりとした小山の上にあります。平均気温が低いためか、平野部に比べて春の来るのが少し遅いように思います。昨年は、平野部に多く植えられている桜のソメイヨシノが満開になったタイミングで滝山城跡に行ったのですが、滝山城跡の桜は、まだほとんど咲いていませんでした。温度差以外に、滝山城跡に植えられている桜はヤマザクラが多いことも開花のタイミングがずれる原因のひとつなのかも知れません。 あまり早く行きすぎても、ヒキガエルが冬眠から覚めていない恐れがあるため、今年は平野部の桜が散り始めたタイミングで滝山城跡に行くことにしました。 ところで、春になると、さまざまな花粉が飛び散り、アレルギー症状が出やすくなります。わたしはスギやヒノキの花粉に対するアレルギーはほとんどないのですが、梅や桜、桃などバラ科の花粉に敏感に反応するようです。スギ・ヒノキの花粉は風を媒介にして受粉するタイプですので、花粉が風に乗って広く散布され、アレルギーを持つ多くの人々を苦しめます。一方、梅や桜は、主に虫を媒介にしているため、被害を及ぼす範囲が比較的狭いからなのか、わたしのアレルギー症状は、それほどひどいものではありません。 しかし、桜の花が咲き乱れるなかを自転車で走ると、さすがに症状が出てきました。涙を流し、鼻水をすすりながらの自転車ツーリングになりました。 |
| 滝山城跡へのステップ。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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井の頭公園から滝山城跡までの道のりは、大きく分けて3つの区間に分けることができます。第1区間は、井の頭公園から野川公園までの約7キロメートル。第2区間は野川公園から多摩川までの約5キロメートル。第3区間は多摩川サイクリングロードを主体とした約18キロメートルです。多摩川サイクリングロードの区間は、ただひたすらサイクリングロード沿いに走ればいいのですが、第1、第2区間はクルマの交通量が多いため注意が必要です。 井の頭公園から多摩川までを、いかに安全に移動するか、ここ数年、ずっと悩んできました。今回は歩道が整備された道と、クルマの通行が少ない裏道を通ったところ、なかなかいい感じで走ることができました。 野川公園までの第1区間は、JR中央線三鷹駅付近から南へ延びている「吉祥寺通り」と、吉祥寺通りと交差して野川公園へ通じる「東八道路」を走りました。この2つの通りは、歩道が比較的よく整備されています。ただ、歩道の道幅は広くないため、走りやすさと安全性は、100点満点のうち60点くらいのぎりぎり及第点をとれる程度だと思いました。 | クリックすると拡大します。 |
| 自然の要塞。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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多摩川サイクリングロードを上流に向けて進んでいくと「拝島橋」という大きな橋があります。この橋の上には多摩地区の主要な幹線道路のひとつ国道16号線が走っています。交通量は非常に多いですが、幸いにも道幅の広い歩道が整備されていますので、ここを通って滝山城跡がある多摩川の反対側に渡ることができます。
滝山城跡の一帯は、小さな山の上にあります。この山の標高は150メートルほどで、拝島橋付近からの標高差は50メートルほどあります。周囲は数十メートルも続く急な斜面が多く、まるで自然の要塞のようです。敵が簡単に攻め入ることができないような地形の上に城を建てることで、守りを固めやすくしたのだと思います。このため、自転車で滝山城跡に入るときも、入口は数か所に限られてしまいます。 昨年、滝山城跡に入ったときは、多摩川沿いにある「滝が原運動場」方面から登りました。ところが、滝が原運動場まで行く道が、非常に狭い上にクルマの交通量が多かったために危険でした。この道を通ることはお勧めしません。 このため、今年は滝山城跡を挟んで反対側の谷地川(やじがわ)から登ることにしました。谷地川沿いにはサイクリングロードがあり、このサイクリングロードを使えば、安全に滝山城跡の中心部へ接近することができます。拝島橋から国道16号線を1.5キロメートルほど進んだところにある左入橋(さにゅうはし)の交差点の付近から谷地川サイクリングロードへ入れます。 国道16号線の左入橋交差点を背にして、谷地川サイクリングロードを1キロメートルほど進んだところで、進行方向右手に折れて滝山街道(国道411号線)を横切りました。滝山城跡へと山道を上り始めると、すぐに未舗装になり、クルマはまったく通らなくなります。山道は、東京純心女子大学の裏手あたり通って、滝山城跡のさらに奥へと続いています。
◆ここで語呂合わせをひとつ。「桜坂、滝山の山に、咲き誇る」という趣旨を話しています。この段落をクリックすると音声を再生します。(録音時間11秒、ファイル容量89KB、MP3形式) |
| 沼の神様と再会する。 (◆の段落や写真を押すと音声や拡大写真が見られます) |
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滝山城跡のほぼ中央部には、大きな窪地があります。滝山城が存在していた400年あまり前までは、城で暮らす人々の生活用水を確保するため、この窪地に水を張っていたそうです。廃城になってからは水が抜けて、大きな窪地になったと言われています。 今は、この窪地にたくさんのヤマザクラが植えられています。通常、桜の花は、下から見上げることが多いのですが、ここの桜は、窪地のなかに生えている桜をのぞき込むようなアングルで見られます。さらに窪地の最も低いところは沼地になっていて、ヒキガエルなど多くの水生動物が暮らしています。 わたしは、さっそく窪地の底の方へ降りていき、沼のなかの様子をのぞいてみました。沼には、たくさんの寒天のような柔らかい緩衝材にくるまれた卵がたくさん産み付けられているのがよく見えました。ヒキガエルの卵です。近くに親ガエルがいないか探してみると、泥の色と区別がつかない焦げ茶色の保護色になったヒキガエルが、何匹か水に浮いていました。 ヒキガエルのなかには、2匹が上下に重なり合っているものがいました。きっと下になっているのが雌で、背中から抱きついているのが雄だと思います。雄は雌の後ろから抱きつき、雌のお腹を圧迫することで産卵を促進しているのだそうです。雌よりも雄の数の方が多いため、たくさんの雄が少ない雌に抱きつこうと揉み合うのですが、それを俗に「カエル合戦」と呼ぶのだそうです。 沼の周囲を歩いていると、今度は草むらから大きなヒキガエルが姿を現しました。ヒキガエルは産卵を終えると水辺から離れて山に帰るそうです。きっとこのカエルは沼での役割が終わり、山に帰る途中でわたしと出会ったのだと思います。ヒキガエルは、わたしの夢のなかで、自らを沼の神様と名乗ったカエルとそっくりです。現実のカエルは、言葉こそ話しませんでしたが、わたしの目の前で立ち止まり、夢と同じように、じっとこちらを見ているようでした。 わたしは、「また来年も来るね」と声をかけました。すると、しばらくしてから、のそのそと、ゆっくり沼とは反対の方向に歩いていきました。来年も、またその次の年も、ここで沼の神様に会えることを願いながら、わたしは大きな窪地を後にしました。 帰りは、多摩川サイクリングロードを下り、JR中央線立川駅から電車で帰りました。ヒキガエルの貫禄たっぷりの風格は印象的で、来年の春先、またわたしの夢で、その勇姿を見せてくれるに違いありません。 |
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